第11話 えー、無職?

 翌日、派遣会社に解約の連絡をする。

 これにより、本人による意思表示が終了。

 小雪も退職願を出す。


 後は、何の力か一気に手順がすっ飛んだ。


 瑠璃は大学。いつも通り。


 俺と小雪はそれでも、月末までは仕事に通う。

 だが、「あなた様の安全のためです」そう言って、リムジンで送り迎えをされることになり、小雪に付き合って八時くらいに出社をする羽目になる。


 あの上司が、君も分かったようだねと、こちらをにまにまと見るが、違うからな。


 やがて、話が伝わったのか、奴の顔色が変わる。


 それはさておき、小雪は俺の隣だが、前と違い……

 ちらっ。うふふという感じで、あっという間に皆が気が付き注目をし始める。

「おい。前と同じように空気扱いをしてくれ。周りの目が痛い」

「えっ? 無理。横にいて、暖かさが伝わってくるんですもの。それに見せつけていないと、又増えても困ります」


 その瞬間、小雪の気配が変わる。

 瑠璃のことだね。

「だってぇ。しかたないじゃないかぁ」

 知っているか知らないが、一応御茶を濁しておく。



 昼も当然小雪と一緒。

 いつもは、近くのコンビニで弁当買ったりしていたが、社食へ行く。

 最初に来た時には、「おやおや部外者がいるぞ」などの嫌みがあったが、今日は?


 なぜか遠巻きにされている。


 管理職級が集まり、人のことをチラ見しながらこそこそと談合中のようだ。

 幾人かが、妙に顔色がなくなっているようだが。


 神崎 慎一郎。当然だが、ビジネス会では有名人の様で、俺と関わりがあると話になったようだ。


 この会社など、買収も倒産も簡単らしい。


「何でそんなお方が派遣など……」

 そんな声が聞こえるが、派遣が先。知りあったのは最近なんだよと言いたい。


 言わないが、なんだか世直し的気分で気持ちが良い。


 なんか、やめなくても気楽に仕事が出来るようになり万々歳だが、最後の日はやって来る。


「短い間でしたが、お世話になりました」

 そう行って皆に頭を下げる。

 慣れた光景。


 だが違うのは、横にいた小雪が、混ぜっ返す。

「ありがとうございました。幸せになります」

 その瞬間に、ザワザワが広がる。


「えっ。どういう事?」

 当然ともいえる疑問が、周りから聞こえる。


「ああ、いえ。これから桜井さんには、事業のパートナーをやっていただくので」

 ごまかせたかどうか不明だが、さらに何でという声が増えていく。


 こうして、謎と疑問を振りまいて職場を後にする。


「職業無職になってしまった」

「でも、神崎さんがあなたには重要な役目があります。きりっ。とか言っていませんでした?」

「言っていたなあ。何をするんだろ。のんびりゆっくり暮らしたいのに」

「ゆっくり、イチャイチャ良いですね」

「あん?」

「いえ。おほほほ」

 そう言って、腕を組んでくる小雪。



 そうして……


「パスポートでございます。桜井様も」

 戻るといきなり渡される。


 先日撮った、不細工な顔が印刷されている。

「では参りましょう」

 そう言ってまた車に乗り、空港へ。


「大昔、こんな番組あったなあ」

「サイコロの旅とかですか?」

「そうだね」

 元ネタの、何とか少年というのを知っている。


 アフリカでヒッチハイクをしたり……


 連れ出される、芸人さんの気持ちが分かる。

 何も聞いていないんだもの。怖いよ。


 と思ったが、テレビで見た所。イタリアのローマ。その中にあるバチカン市国。


 サン・ピエトロ広場からヴァティカン宮殿へ。


 何というか、目を合わせた瞬間に皆が礼を取る。

 偉くなった気分だ。


 後でそう言ったら、呆れられたが……


「あなたは偉いんです。自覚してください」

 だそうだ。

 だがいきなりそう言われて、人は簡単に自覚も出来ないし、変わることも出来ない。


 そこでは偉い人たちに囲まれ、力を見せ跪かれた。


 幾人かの、使徒達がすでに見つかっており、跪かれる。

 そういう挨拶かと思い、跪こうとして止められた。


 色々言われても今無職だぜ。

 そう思ったが、違ったようだ。

「正式に認められ、あなたは使徒でございます。それも指導者である十二名の頂点。良いですか? この星であなたが一番偉いと自覚をしてください」

 真面目な顔でそう言われて、そうなのかと思うが、小雪にほっぺをつねって貰っても痛くないんだよ。きっと夢だろう。


 目が覚めたら、嘘でした。そう言われても俺は怒らないよ。


 だが、目が覚めても見慣れない宮殿の一室だった。


 現実逃避に、バカみたいに小雪を求めたせいで、彼女はまだ目覚めていない。


 何か、声がかかり、朝食が運ばれてくる。


 だが、いやな感じがして捕まえる。

「これはいやだ、換えてくれ」

 イタリア語なのかラテン語なのか知らないが、何かを言われる。

 騒いでいると、通訳さんが来た。


「この料理はいやな感じがする。換えてくれ」

「はっ承知いたしました。すぐに」

 だが、さっき料理を運んできた男が、舌打ちをすると、そいつの手に銃が握られていた。


 きゃほー。本物だぜ。などと喜びたいが、銃口が自身に向けられているとロマンも後回しだ。


 シールドを張る。


 浄化を使っても、奴らに乗っ取られていたようではなく、職業の人だったようだ。

 ちょっとムカッときたので、能力の一つ。

 汝悔い改めよ。的な波動を与える。


 すると男は膝をつき、双眼から涙をこぼし始める。


 おれは、そっと銃を取り上げ、心の中のワクワクを満足させる。

 本物だぜこれ。

 弾を抜きばらしてみる。

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