第5話 人生初のモテ期

 その後、一緒に居た女の子や、店員の証言から、犯人は松岡 利己まつおか としみ二十二歳だと証明されたが、殴ったことにぶつぶつ言われる。


「ナイフとフォークを振り回して、危険だったんです」

 そう説明をしたが、なぜか警察署に引っ張って行かれる。


 争点は、刑法第三十六条一項。急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。つまり振るった暴力が、正当防衛となるかどうか。


 ちなみに二項は、やり過ぎたときの減免について、防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。と定められている。


 横に居る警官も、仕方ないよねと言ってくれたが、なかなかオッサンが引き下がらない。

「しかしこいつは、非正規なのに、こんな彼女を連れて……」

 そんな事を言って、ごねている。


 もう一人の警官が、困った感じで説明してくれた。

「あいつ。もう三十五なんだけどね、独身でね。君が彼女。それもかわいい子を連れていて。話を聞くと、君の仕事が派遣だという事で、納得が出来ないと少し意固地になっていてね」

 それを聞いて、小雪ちゃんから、少し喜んだ気持ちが流れてくる。


 俺にしてみれば、非常に理不尽で、良い迷惑だ。

「じゃあ、帰って良いですね」

「ああ。大丈夫。ただ君が殴ったのが原因で、相手が死んだら逮捕をしに行くからね」

 そんな物騒な言葉を、笑いながら言われて帰された。

 大丈夫だよな。


「疲れましたね」

「ごめんな。手を出したばかりに」

「あれは警官がおかしいんです。直樹さん。ここからなら、うちの方が近いし、飲み直しません」

 彼女のドキドキが流れ込んでくる。


「まあそうだな。あまり遅くならない程度なら」

 その瞬間、すごく幸せな気持ちが流れ込んでくる。


 コンビニへ行って、買い物をする。


 その頃。

「ありがとうございました」

 病院から出てくる女の子。

 

 目の腫れや、ナイフでやられた裂傷。

 他にも強引に掴まれて、内出血や、殴られた打撲。


 結構。痛々しい。支払いは、同時に運ばれた犯人の親持ちで、後日診断書を貰う。

 彼の方は、退院後逮捕となっている。


 身を挺してかばってくれた男。

 基本彼女は、男が嫌い。だが、なぜか彼には引かれる。


 彼女のお母さんは、幼い頃離婚をして、彼女が小学校五年生頃再婚をした。

 良くあることだが、その男がお父さんと言うには、気持ちが悪かった。下品で嫌らしい目。


 それが、男を見る基準となって、いまだ、まともに付き合った人は居ない。そう。男など知らない彼女。


 奴が言っていた彼氏も、すべて勘違いで、彼は多田野 友人ただの ゆうとと言う、ゼミの仲間。


「明日、お店に聞いてみよう」


 奇しくも、というか両ペアとも、金を払っていなかった。

 翌日、店で出会うことになる。



 さてその頃。

 突然のモテ状態で焦っている、直樹。


 コンビニで買い込んだ、乾き物などで酎ハイを飲んでいた。


 彼女の部屋で。

 初めての女の子の部屋。

 舞い上がらないわけが無い。

 彼女が、「ゆっくりとしていてください」

 などと言って、物騒な事に俺を一人おいて、シャワーを浴びに行ってしまった。

 すごく高鳴っている、気持ちだけを残して。


 当然だが、直樹も同じ。

 そうして、当然のように二人は挑み、直樹は聞いてしまった彼女が持つ恐怖。

 それを、聞いたがために失敗をする。


「ごめんね」

「良いんです。いつでも大丈夫ですから」

 そんな励ましを聞いて、彼女と一緒に眠りにつく。


 すると聞こえる、上からの声。


『私と交わり、力を得たものよ。聞きなさい』

「んあっ。なんだ」

『私は、ⲁⲣⲟ𝛓ⲧⲟ𝓵𐌵𝛓 𝓳ⲟⲏⲛヨハネ。力を与えるものだ。使い方を教えよう。すでに奴らはここに居る。漏らさぬよう浄化せねば、闇を吸い、集まり。強力になる。急ぎなさい。我が子達よ』


 よく分からなかったが、力の使い方は、睡眠学習でズドンと降ってきた。すごく頭が痛かったが、少し経ち今はもう落ち着いた。


 彼女を起こさないように、ベッドから出る。


 窓から見える夜景は、意識をすれば赤外線モードのような、モノトーンの世界へと切り替わる。


 その中で蠢く、黒い者達。


 彼女に影響が来ないように、周囲十キロを浄化する。

 ポーズなど必要ない、念じるだけ。

 祓い清めよ。そんなイメージ。


 奴らは闇。この宇宙の発生した時。混沌とした闇で生まれ。俺に入った光もまた少し遅れて生まれ、存在しバランスを取っているようだ。

 過去に、はびこったことを知らず、文明を持った星を滅ぼしてしまった事があり、むきになって彼らを追いかけている。


 まあ、なんとなく分かったが、この世界に今、俺を合わせて八二人の光の者がいて、動き始めたようだ。まあ強いのは、使徒と呼ばれる上位者。俺を含めて十二人らしい。


 ただまあ、来たばかりでどちらも弱い。

 重要なのは、子供が出来れば次世代に引き継がれ、一時期力が半分となる事これは気を付けないといけない。とすれば作るのは今しか無い? とも思ったが、うまく出来ないもの。仕方が無いよな。


 つい、女の子の家へ来て、ベランダでハウツーを検索する、アラサーの男。

「どう考えても、変な奴だよな」

 スマホの画面に表示されたのは、『初めてでも大丈夫。昇天テク。ハウツー動画』


 リンク先を踏んだら、『会員登録ありがとうございます』と表示され、消えなくなった。『消すにはお電話ください』とか書かれている。

 ため息を付きながら、起動中の画面を下から上にスワイプをして、強制終了をする。


 設定から、閲覧キャッシュを削除する。


「まあ、いいか。いまさらだ。焦らずゆっくり…… だな」

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