第4話 創作料理屋での一幕
写真シール機で、寄り添って写真を撮るが、どうしても俺は、証明写真になる。
少し不機嫌な彼女だが、「まあいいです」と許してくれた。
心の声は、ずっと文句を言っていたが。
最後の強引な引きつった俺の笑いは、彼女の中でも無しだったようだ。
『怖い』と流れてきた。
「行きましょ」
そう言って、おれに慣れたのか、手を引かれて店へと向かう。
終始楽しそうな彼女。
フロアではなく、個室だったことに少し驚いたようだが、まあいい。
乾杯をして、いきなり。
どうして派遣なのかと、突っ込まれる。
隠しても仕方が無いので、説明をして、お返しにどうして俺に良くしてくれるのかを聞く。
「それ、ききます?」
そう言って、少し苦笑いされたが、『昔好きだった、近所のお兄ちゃんに似ているからって言ったら、嫌われるかなぁ』などと、心でつぶやきながら、言葉では「なんとなくです」と濁される。
近所のお兄ちゃんという記憶は、小雪が小学校に入る前の古いもの。
公園で遊んでいたときに、お菓子をくれたとかそんな記憶。
その記憶があったからか、物心が付いた頃には、遊びに混ざりに行って男の子達にジャマ扱いされた。そして男の子は怖いというのが刻み込まれた。
その後、話の中で、通信や夜間の大学もあること。
なんだったら、勉強を教えますから、頑張りましょうと、励まされる。
その時には、部屋で二人。うふ。とかも聞こえる。
その後、就職と共に一人暮らしを始め、最初は楽しく自由を満喫したが、すべてを自分でやることが意外と大変で、お母さんの感謝とか。
思ったより、一人で部屋に居るのが、淋しいことを伝えられる。
ふざけた感じで軽くだが、言葉として言ってくれた。
こうしているのが楽しく、まだ帰りたくないことも流れてくる。
いい加減聞いているのが、心苦しくなってくる。
何だろう、良心的な後ろめたさ?
だが、彼女に言うと、引かれるだろう。
そう思っていると、フロアの方が騒がしくなり、壁を抜けてあいつが目の前に出てきた。手足の生えたコウモリ。
つい反射的に掴むと、奴はもろもろと崩れて消えた。
「何ですか今の?」
「昼間に見たあいつだが、つい掴んでしまった」
除菌スプレーと一緒に、おしぼりが目の前に出てくる。
「はやく。あんな変なものを触ったんですから、除菌をしないと」
「ああ。ありがとう」
スプレーを拭きかけて貰い、揉み手をして、拭うが、外の騒動は収まらない。
そっと、ドアから店内を覗く。
すると、若そうな兄ちゃんが暴れていた。
凶悪なことに、フォークとナイフを握りしめているようだ。店の中では店員や他の客は、遠巻きに見ていた。
「あれは危ないな」
そっ閉じをする。
「どういう了見だ。あいつと別れたんじゃないのか?」
「きゃあっ」
そんな声が聞こえる。
「うわっ。痴話げんかだ」
「そうですねぇ。直樹さん。浮気とかどう思います?」
意外と冷静に、そんな質問が来た。
「だいじょうぶだ。俺はモテない。デートもこれが初めてだ」
反射的に言ってしまってから、つい膝の力ががっくりと抜ける。
「えーと、ありがとうございます」
彼女は、そう言ったが、『悪い事を聞いちゃった。ごめんなさい。でも、それなら安心かな?』そんな声が聞こえる。
ああ。そういう考え方もあるのか。
そんな、少しラブコメチックな事をしていると、乱暴にドアが開き、少し血の流れている女の人が、こちらへ飛んでくる。
殴られたのか、目の周りが腫れ、頬を切られていた。
思わず受け止める。
「なんだてめえら、てめえも瑠璃の男か?」
小雪ちゃんから、言葉ではなく。胸が痛むような恐怖が流れてきた。
らしくないが、反射的に体が動いた。
こっ、これが守るものが出来たときの、男としての覚醒か?
自分でも少しビックリした。
思わず、全身からオーラでも吹き上がりそうだ。
彼女達を守るように、奴の前に立ちはだかる。
そして奴に向かい、びしっと言葉をかける。
「なんだ、ちみは」
あっ、かんだ。言う事の無い台詞だったから。
ちみって…… なんだよぉ。
「やかましい。瑠璃は俺の女だ」
奴がそう言ったとき、俺の後ろから声がする。
「食事をしただけでどうして、俺の女って言う台詞が出るのよ。ここには来たかったから、来ただけ。それだけよ。勘違いをして変なことを言わないで。恥ずかしい」
なかなか気丈だし、美人さんだな。
「彼女と違うらしいぞ。そのフォークとナイフを置いて、出て行ってくれ」
「やかましい。死ねや。
その台詞。ちみとちがい、何かグサッときた。
なぜだろう。凡庸と言う事は知っているが、凡庸な奴に凡庸と言われると、来るものがある。
せめて特徴が無いとか、一般的なとか…… 没個性的とか。あれ? 凡庸と言われる方が、良いような気がする。
悩んで、落ち込んでいる間に、奴のフォークが振り下ろされる。
ものすごく、ゆっくり。
なんだこれ。
つい手の甲で、手首辺りをはじき、ナイフを持っている方の手も掴む。
手から離れた、フォークが飛んできたのだが、ゆっくりだったので気にしなかったら、ほっぺをかすり結構痛かった。
左手で、ボディに一発入れると、「カハッ」とか言って、
ナイフも取り上げる。
すると、店員さんが走り込んできて、状況確認。
「すぐに警察が来ますから。あっ血が出ています。治療しましょう」
そう言って出て行ってしまった。
犯人は、ずっと動かないが、生きている。
立ち上がれないようだが。
あっ。きらきら。
最悪だ。
「うん。また君か」
駆けつけた警官は、しつこくあぶない薬の検査をしようとしていたオッサンだった。
「暴れたのは君か」
「ちがいます。そいつです」
小雪ちゃんが犯人を指さす。
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