第3話 魔と使徒達

「あっいえ、すみません。道ばたで、人が数人暴れていまして」

 初めて架けるから、テンパってしまった。


「はい。分かりました。今おられるあたりでしょうか?」

「そうです」

「では、近くの警官を向かわせます。詳細を求められたら、報告をお願いします」

「はい」


 とりあえず、警官は来る。

「おまわりさんが、来るんですか?」

「ああ、来てくれる。危ないし行こうか」

 暴れている連中を避け、向こう側にどうやって抜けようかと考える。


「えっ、待っていなくて良いんですか?」

 ちょっと引かれた。『呼んだ本人が、居なくて大丈夫』などと聞こえる。


「まずいかな?」

「たぶん……」




 ヨーロッパ。西ドイツの、ある地方都市。

 子供の頃から、敬虔なクリスチャンであるモーリッツ=フォルトナー。

 丁度、日本で直樹が光に襲われた時間、時差の関係で、夜中一時。

 祈りを捧げ、寝ようとしていた。


 そんな時。

 柔らかな光が、窓を通り抜け、自身の体にすっと入り込む。


 実に不思議な光景だが、神に祈った後。

 何かの力か、奇跡が起きたのだと、かれは、何故か納得をした。


 体に何も変化はなく、胸の前で十字を切ると、彼はいつもの様に眠りにつく。


 翌朝、大学へと向かう途中、話に聞くデーモンを目撃をする。

 手足の生えたコウモリが、飛んでいた。

 昨夜のあれは、やはり。


 きっと、奇跡の力を得たのだろうと考え、彼は試す。

「穢れた存在。彼らを祓いたまえ」

 何かの映画で見た記憶。胸の前で十字を切り、手を突き出す。


 すると、彼がしたように、掌から放出された光が、奴らを捉え、彼らは焼かれ始める。

 それは匂いも無く、周りを焦がす事も無く、ただ醜悪なる体だけを燃やし尽くす。

 奇跡の炎。聖なる光。彼はそう理解する。


「おお神よ。感謝いたします。わたくしに力をお与えくださるとは。この身尽きるまで、世界のために尽くしましょう」

 彼は与えられた奇跡の力に感激し、神に感謝を伝えるため祈る。



 それは、他の都市でも発生して、大いなる力を得た者は十二名。

 それより力は劣るが、同様の力を得た者が七十人あまり。今の世界に存在していると言われている。


 だがその力。等しくはなく。使える奇跡に差があった。

 それは、の個体差。受け側ではない、入った者達の力に優劣があった。


 モーリッツ=フォルトナーは、その力を得てから1日。どう言う物かした後、父親に告白をして、助力を願う。

 父は、実業家でいくつかの物を販売している。

 むろん、金銭的にもある程度余裕がある。


 息子が、使徒とも言える力を得た。

 協力をしないわけが無い。

 自慢の息子。


 数代前からの移民であり、スラブ系で容姿が良い。髪色は金、目はブルー。身長一八二センチ。スポーツをしていたため細マッチョ。ハイスクール時代からモテた彼だ。


 むろん教会へも報告をして、彼は学生でありながら、正式に退魔師となる。




 日本では、予約時間まで、アニメを見ている二人。

 警官には、よく分からないが、手足の生えたコウモリが居て、近くに居た人が暴れ出したと説明をする。


 当然警官が来たときには、そいつはすでに居なかったが、問答をしている最中、同様の件が無線を通じて報告をされ、何とか、怪しい薬の検査をされる前に解放された。オッサンの警官が、むきになっておれを逮捕しようとしやがった。


 そうだよ、詳細を説明してくれと言って、身分を言ってからだ。

「なんでお前のような奴が……」

 そう言いながら、同僚に引っ張って行かれた。


 そして、時間も中途半端なので、彼女が見たがっていた映画。

『何度もやり直せれば最強じゃね。俺は最凶の魔王になる』

 そんなタイトルの映画を見ていた。


 ちなみに、そのタイトルの後に、副題がプロローグのように二百文字並んで流れていく。

『転生した世界での、王の態度が糞だったので、敵に回ることを決意した。だが、気づいた王に殺された。でも、おれば憎しみを抱いたまま生き返る。そして王達に復讐する力を得るため、俺は魔王領へと向かう…… 魔王領の奴らは優しく迎えてくれて、こっちへ来てから初めての安らぎを得たんだが、幸せな時間はは長く続かず、鬼のような人間どもが攻めてきた。奴らは、魔族をもてあそび残忍に殺していく。この異世界、人間は鬼ばかり。』


 オープニングは文字ばかりだった。


「魔王軍の仲間達が、次々に殺されて、主人公の感じる怒りが力になって、王国軍を倒すところすごかったですね」

「あーまあ。そうかな」


 おれ的には、よく分からなかった。

 王国でも、逃がしてくれたり、無料で泊めてくれたり。結構良い人が居たけれど皆死んじゃったし。


 ただまあ、お色気シーンが結構あって、そのたびに小雪ちゃんがドキドキそわそわしている方が気になったし。

 彼女の『良いなあ、あれ』と。

 流れ込む感情が、俺に向いているのが気になって。本当に良いのだろうか。もう少しふさわしい奴とか……

 あれ彼女、新卒で二年だから二十四歳?

 二つ違い。うーん。丁度?


 そんなことを考えていると、映画は終わっていた。

 

 ホール内に設置されているテレビから、奇妙な生き物が日本中に現れ、近くに居る人が、奇妙な行動を起こすかもしれないから、注意をしてくださいと、よく分からない注意が流れていた。見れば納得だが、見てない人間には、きっとなんじゃそりゃだろう。


 その中で、奇妙な光が体に入り、妙な生き物を退治できるとつぶやいていた人が、訳が分からない生き物だからと言って。退治をするのは駄目じゃないかと、叩かれていた。


 それに関係をするのか判らないが、『Gは害虫か益虫か』論争が変に盛り上がっていた。


 少し時間があったので、ゲーセンに移動をして、見て回る。

 彼女が、分かりやすく写真シール機に行きたがっていたので、そっちに向かう。


 もう聞きたくて仕方が無いが、どうして俺のことを気に入っているのだろう。その疑問が大きくなっていく。

 俺はフツメンだが、彼女はかわいい方だと思う。

 自分の美醜に関する感覚が、普通から離れていなければだが。


 ただまあ、その事を言葉としては聞かず、聞こえてきたものは少しヘコむものだった。良いけどね。

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