第三十五話 黒猫の結論
「どういうことだよ」
「みんな捕まったんだろ」
「なのになんでまだ攻撃の音がするんだ!」
私は確かに仲間が捕まってしまうところを聞き届けた。
しかしマトリョーシカ状の黒猫の外側から爆撃にも近い、凄惨な攻撃の音が聞こえた。
私たちのこけおどしとは違う、殺傷力をもつそれ――生まれた時代柄、その技に攻撃力があることくらい分かった。
「敬太郎から既に七座は消えた。だがまだ居場所はあるだろう、茶会が」
壁を一枚隔てているから言っても音はくぐもる。けれど痛烈に鼓膜に響いた。
こいつは『これらの過剰攻撃も私たちの責任にする』と言ってのけたのだ。
「なにしてんだよ!これ以上私から何を奪うんだよ!やめろ!!今すぐやめろこのっクソ馬鹿野郎!!」
「これも貴公の為だ」
「為もクソもあるかよ!!てめえは知らねえから言えるんだよ!!燃える炎がどれだけ熱いのか!!崩れた建物がどれだけ重いのか!!争いの世をまた始めるつもりか!!!」
「貴公とて始めようとしたではないか」
「ありゃヒーローショーだ。こんなの見世物じゃない、聞くに堪えないぞ」
「つくづく……分からないな。僕はこんなに敬太郎を想って行動してるのに不満そうなのが分からない」
僅かに地面から浮いているらしい招き猫。足音が反響を始め、小刻みに――恐らく階段を下り始めた。地下の牢屋なり牢獄に繋いでおくつもりなのだろう。
地下の静かな冷気が真ん中の切れ目から漏れ出す。
「……この後どうするつもりだ」
「言えない」
「なんでこんなことをした」
「貴公が言ったのだぞ『自分が御御亭を抜けたら金も人も理解もなくなる』と。であれば敬太郎の未練を消してやろうと――金も人も理解もなくなければ、貴公は六碌亭に入らざるを得ないだろう?」
「理論の飛躍だ!そんなこと私が望んでると思ったのか!?」
「僕は望んでいる。敬太郎と共に魔導書を解読し、魔法の研究に来る日も来る日も勤しむ日常がとてもとてもとてもほしい……貴公とて一度も望まなかったとは言わせない。夢想したはずだ、『今の評価は正当ではない。真の実力は並大抵ではない』と」
「性格悪いよなお前」
「敬太郎と同じくらいね」
尊琴の言う私の台詞を正確に思い出す……『私が抜けたら本当に金も人も理解もなくなっちゃうでしょう。それに、師匠がかわいそうだ』。
「師匠はどうなる。赦免花も」
「そちらは僕の同志に任せてある。御御亭が消えたところで彼らとの繋がりまでも消えるわけではない、優しさだよ」
「同志……武尊か。手下じゃなく対等な関係とはね。中々やるじゃないか」
「褒めるのはまだ早い。全てが終わってから、思う存分撫でまわすがいいさ」
足音が止まったかと思えば招き猫が割れて、目に入る光量の多さに顔をしかめる。白飛びする視界が徐々に元に戻り、異端審問会が用意したものと大差ない牢屋に私が一人。
「離せゴラ!」「許さないよほんとに」「六碌亭は何をしているのか理解しているのですか」茶会の面々の抗議の声が漏れ出ている。位置からして横の牢屋に捕まっているのだろう。
「私は御御亭が好きなんだよ。使えない解道も、だらしない師匠も、甘っちょろい妹弟子も含めて、取り囲む環境が好きなんだ。誰かに用意された軟禁みたいな関係なんか満足しない」
「そこで少し頭を冷やしておくがいいよ」
手首に拘束具が装着されていることに気付く。魔道の発動を無効化する異端審問会に捕まったときと同じ魔道具。
牢屋の扉を閉める尊琴を追いかけることはできなかった。
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