第三十話 作戦会議 in 校長室

「失礼します」


 黒猫のような女が校長室に入った。応接用のソファ上座に金獅子のような老人が座っており、促されるまま彼女は対面に座する。


 机には半紙と筆が置かれていた。


「計画通り御御亭は七座から外れた。古本市の話も持ち掛け飲まれた。残すは尊琴、お前の頑張り次第ぞ」


「承知しております武尊師匠」


 緊張した面持ちで尊琴は頷く。


 「さてどうするか」筆を持ち上げ、宙で少し遊ばせたのち、半紙に墨を付けた。


「願いを叶える『望』、六碌の一文字を取って『碌』、『亭』で結び、『望碌亭』。新たな看板を背負い空いた一席を埋めよ」


 金獅子は歯を出して獰猛な笑みを浮かべる。


「よいな。望碌亭武尊師匠」


 尊琴は深々と頭を下げるのに対し、彼の気苦労など知らぬ素振りでもう喋り出す。


「さしあたって望碌亭に何人弟子を送ろうか。十人でも百人でも多いにこしたことはなかろう」


「六碌亭の優秀な魔法使いにはもう声を掛けております故、師匠のお手を煩わせることはございません」


「全く手のかからぬ弟子よ。売り上げのことなど話すまでもないだろう。数からして、望碌亭の勝ちは決まっている。もうよいぞ」


 武尊の『下がれ』という命に彼は従わなかった。その眉が不機嫌に釣り下がる。


「この件の成功につきましては僕の望みを叶えて頂きたく存じます」


「よいよい、何度も聞いた。儂が尊琴と手を組んだのは”それ”が発端であろう。今更反故にするなど考えとらん。我々は似た野望をもつ同志ではないか」


「ありがとうございます」


 ようやく尊琴は席を立った。


 表情が曇ったのはほんの一瞬。だが彼の額には玉のような汗がにじんでいた。


 古本市まで時間がない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る