第二十七話 七座総会
魔法協会の会議室には長机がロの字に並べられ、七席が設けられる。リノリウムの床に、机は簡素な事務机で、椅子はパイプ椅子で申し訳程度に薄い座布団が敷かれる。窓はブラインドで締め切られ、蛍光灯がぱらぱら明滅するばかりであった。
魔法使いらしさなんてかけらもない部屋の四席が埋まる。
六碌亭武尊。唐紙扉戸信のすけ。浦々愛蔵。日青日月亭正明。
「御御亭と凍てつくっ亭はどうした。協会会長もいないとは、嘆かわしい」
「口ぶりからしてあなたが私たちを集めたですかね、武尊。下手な理由だったらそのお髭全部刈るですわよ」
「四人いれば十分か。諸君を集めたのは他でもない。御御亭敬太郎の非道について……」
他三名の机に新聞が出現し、固定するように刀子で机まで貫通する。紙面いっぱいに書かれた『御御亭敬太郎、処刑。異端審問官に暴かれた真実』という記事。
先日の爆破事故は彼の犯行であり、かつ六碌亭の赦免花をたぶらかしたという内容であった。
「これじゃあ新聞じゃなくて週刊誌ですわね」
「異端審問会なんぞの戯言を真に受ける奴がいるか。手前ェ、これを敬太郎坊の非道っつーなら色眼鏡もいいとこだぞ」
武尊は想定内と彼らの物言いを意に介さない。
「真実など、どうでもよかろう」
冷血に、冷徹に、冷静に、三名の師匠は視線をくべた。彼らの存在感は『最悪の場合』に備えて歪に捻じ曲がる。
「あの小童は『爆破事故の犯人で私の孫に手を出した挙句異端審問官に捕まった無能魔法使い』となった。魔道を踏み外したのだ、非道に違いない」
六碌亭と対面する席は空、座布団が二枚積まれてその上に薄く埃が被る。
「最早御御亭が七座に居続ける理由は失せた。過去に縛られる最古の魔法使い一人が座るにはその椅子は大き過ぎる……誰も七座に相応しいと思っちゃいないのだよ。我々がこれを許せば七座そのものに不満がたまる」
野心をもって盛り上げようとしていた優秀な弟子が消えた御御亭は七座に相応しいか。
七座ではない魔法使いたちは現状に納得できているのか。
師匠らの影は人の形に戻る。
「彼らが恋仲だという噂を流したのは」
「いきなりふしだらな仲になったとするより、順序立てた方が真実らしいだろう」
「そのためだけに?」
「そうだとも」
「つまり自分の孫を駒にしたと。気色悪い、そこまでして御御亭を失脚させたかったのですか」
首肯し、正明は鼻で笑う。
「儂を罰すかね、いや諸君には不可能だとも。なにせこの件は六碌亭と御御亭のいざこざであり、諸君の亭号には無関係なのだから。魔法使いとはそういうものだろう?首を突っ込めば面倒事を増やすだけ……今日呼んだのは許可を取るためだよ」
卓上に二枚の書類を並べた。
一枚は七座脱退の署名、もう一枚は古本市のポスター。
「御御亭が退いた一席、古本市で最も売り上げた一門にやるのはどうか。浦々愛蔵」
起きているのか寝ているのか死んでいるのか生きているのか分からない老人は小さな身体を椅子から起こす。
机にぶら下げていた杖で署名紙を引きつけ、先端に乗せた。
「………………………………………………………………」
紙は杖先から凍ってゆく。薄氷を広げ伸ばし、凹凸を付けて、枠の一つを実に達筆に埋めた。『浦々愛蔵。此れに賛同せし』と。
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