第十九話 下世話な師匠ー②
二人の師匠が往来した拠点に向かって歩き、道すがら窓口に向かう日青日月亭当主正明師匠を捕まえる。
サイズの大きなマスクにサイズの大きなサングラス。一見幼女に見紛う和装の彼女は何を隠そう先のクレーマーと同じ偉い魔法使いなのである。
「薄汚い手で触らないでほしいのです。汚れがシミになったらどうしましょう。このお着物とっても高いのですよ。あなたのお賃金じゃ百年かかるのです」
私は師匠を片手で、横腹に垂直になるように抱えていた。
「なんで魔法協会のトップが遊んでおられるんですか。しかも根も葉もない戯言をおっしゃる。問題抱えた妹弟子を抱える私の身にもなってください」
「いけずですね。妹弟子だなんて、この正明の御前だからってかしこまらなくて良いのです。普段は彼女のことをなんて呼んでるのです?さあおっしゃりなさい」
「……赦免花と呼んでますが」
「きゃあ!はれんち!」
あらぬ誤解を受けている気がしてならない。
柔らかくカラフルな床材が敷かれた談話スペース。低い机とソファが点々と配置され、奥には小さな遊具の揃うキッズスペースは見える。鬼と老人が同じ机を囲みひそひそ話していた。
「捕まっちゃった」事もなげに腕を振りほどき四人掛けの一席を埋めた。彼女を持っていた肩から下の痺れと戦いながら、最後の席に腰掛ける。
三人の目が輝く。流石は茶会連中の師匠たちだ。皆一様に濁り切った下世話な瞳をしている。
まずは誤解を解かねば。
「私と赦免花は付き合ってません」
「「えええええええええええええええええええ!?」」
「身分違いの恋とか、それでも彼女を愛す男気とか、引き剥がそうとする両家とか、悲劇モノだとばかり!!」
「誰がロミオとジュリエットですか」
「けどあなた『赦免花』って下の名前で呼び捨てにしてるそうじゃないです?」
「そう呼ばないと怒るんです、あの魔法使い」
三人の師匠は身を乗り出し内緒話を聞こえる声量で始める。
「これあの子の想いに気付いてないだけです、きっとそうです」
「違いない。ラノベ主人公というやつだ」
「別種の面白さでしたね。お二方の趣味に合いますか?」
正明師匠の投げかけに二人は首を大きく縦に振る。
相談は以上のようで、着席した師匠連中は私を向き歯茎を見せる。代表として「まだ面白そうなので下世話を続けさせていただくがよろしいか」と
「構いませんけど、多分私は彼女の恋愛対象では」
「「またまたー」」
「まずもって、なぜそんな根も葉もない話が始まったんですか」
「
絶句。
あの校長室の一幕でそんなに情報が錯乱していたとは!
赦免花も相当な勘違いをしていたが、祖父も似て非なる酷い思い違いをしていたと……流石血縁と言うべきか、なんというか。
「斯様に面白きことが起こっているならばと七座の大魔法使い達に共有し、」
「ひとまず乗っかったのが私たち二人というわけです」
「つまりうちの御御もそんな馬鹿馬鹿しい嘘をご存じというのですか!?」
「や、彼女ぐるうぷちゃっとに加盟していないので知らないはずです」
最大の危機は去った。だが他の大魔法使いに虚偽の情報が行き渡っているのも事実。今後尊琴に一度絡まれることが確定したことを思うと気が重い。
「違う。赦免花は尊琴に嫌がらせを受けた。『私と付き合っている』という嘘を知っているなら、攻撃の対象は私であるはず。むしろ彼の行為は応援してるようだ」
「……仔細分からぬが、尊琴殿が純に応援したいだけ、とは考えられぬか」
「彼はみかんと私を目の敵にしています。そしてみかんを嫌う理由は私にあるらしいのです」
「見事な犬猿だな」
「猿蟹の方が似てます」
「それだと私は懲らしめられる側では?」
六碌亭の対応と噂には大きな矛盾がある。何か企んでいると思って間違いないだろう。
「武尊から企みについて聞いていませんか」
「師匠が取れましたね、愉快です。残念ですが私たちは特に話されていません。六碌亭からすれば部外者ですから」
「おおよそ真相は見当つくがな」
「是非お聞かせ願いたい!」
「言ってしまっては面白くない。ラノベ主人公たるもの自ら推理し結末を描かなくては」
「ラノベ主人公など恐れ多い、私など名もなき端役に過ぎません。ですから真相を、」
「敬太郎君」
私を見ている
「はい」
「我々は魔法使いです。諦めた方が賢いです」
「……はい」
無邪気に邪悪。皆一様に性格がねじれて、他人の不幸を主食とする。私も同じ立場なら、困り果てる魔法使いをにやにや笑って尾行したことだろう。
「
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