第十四話 異端審問会ー②
柔らかく伸びる金髪をポニーテールにして、切れ長の碧眼はころころ光る。新品のローブに未だ傷はなく、自信に満ち満ちた表情からして学生生活は順風満帆なのだろう。
「助かったよ、ありがとう」
「敬太郎はとても災難ね。あれ異端審問官でしょう。一体何をしでかしちゃったの?」
「何もしてない!奴らが真っ当な理由で魔法使いを裁くことなんて一度もないからな!」
「あんまり騒ぐと見つかるわ」
「…………」
ここは無人の教室。明かりもついていない。
「助けてもらっておいてなんだけど、なんでここに……次授業があるって雰囲気じゃないし」
「別に、暇潰しだけど。悪い?」
「気になっただけだよ」
強まる語気にこれ以上問い質す気にはなれない。
「話は変わるけど、もう入門する一門は決めた?」
「ええ、決めてるわ」
「もしよろしければアットホームな御御亭はいかがああなんだ決めてるんだ忘れて」
「そのアットホームな御御亭に入りたいのよ。ほら入門届もここに」
「なんだあ、うちに入門したかったのか……………………なんだ!?うちに入門したかったのか!?」
「全ての音が遅れて聞こえているの?」
彼女が取り出した藁半紙を震える手で受け取り――取る前に手汗が溢れていることに気付いてしっかり拭き取り――要項を確認する。
亭号:御御亭
確かにその紙にはうちの一門の名前が書かれている。丁寧な字だがところどころ丸っぽく癖がある。
苦節幾年、この入門届が見たいが為に私は身を粉にしてきた。師匠のわがままを我慢し、周りの目に耐え、師匠のわがままに我慢した。全ては御御亭復興、新入生獲得の為!
「どうして泣きそうになってるのかしら!?」
「だって、私は、やっと報われたんだ……もう死んだっていい……」
「じゃあ一門の人数は変わらないじゃない!まったく」
気の強い新入生は腕を組み鼻を鳴らす。
「ごめんよ……でも、なんでうちに?」
「一門紹介会を見たのよ」
「なんでうちに……?」
「疑問を深めないでくださる?」
正直、御御亭の紹介は事故レベルに酷かった。以来どことなく周りの見る目が厳しくなった気がするし、もう今年は絶対駄目だと思っていたのに。
「そういえば君の名前は?」
「赦免花。そこに書いてるでしょう」
入門届の指差され、再確認。
亭号:御御亭
学年:一回生
学部:普通魔法学部
氏名:
「六碌ってお前まさか」
「ええそうお察しの通り。私は
六碌亭武尊とは日本最古の魔法使いの一人、七座は六碌亭のトップで、現魔法学校校長。魔法史の権威と言えば真っ先に思いつく物凄い魔法使いだ。
かつては御御師匠と幾度となく決闘をしていたらしい。ならこの差はなんだ。
私は数秒の葛藤の後、入門届を突き返した。
「どういうおつもり」
「六碌の人間は六碌亭に入るだろ普通」
「まあなんて古い考え、脳みそ古物商にお売りになられたら?」
「売らねえよ一点物だぞ。仮にだ、お前が、」
「お前って言うの辞めてほしいわ。せっかく聞いたのだから
「……赦免花が御御亭に入ったとして、対立関係にある六碌亭は確実に戦争を仕掛けてくる。トップの実孫だぞ。魔法史に名を残す名家の令嬢にそんな奔放な選択させないはずだ」
「どこまでも古い考えね。かつては対立してたらしいけど、今となっては争う理由なんてないじゃない」
「現に尊琴は私を目の敵にしている。理由なんてなくとも確執はあるんだよ」
「一部の魔法使いはそうかもね。でも六碌亭全員が御御亭を敵視してるわけじゃないのよ。現に私は敬太郎を助けたでしょう」
平行線だ。これ以上話し合っても結論なんか出ない。
「やけに食い下がるな。御御亭に固執する理由があるのか?」
「気に入らないの」
赦免花は声を鋭く低めた。
「みんな六碌の生まれだからって特別扱いする、毛嫌いする。とても不快よ、ええ不快だわ。だから御御亭を選んだ、みんなの評価が最悪のここなら私自身を見てくれるから」
紹介会を見て、というのはあながち間違いではなかったのか。にしてもだ。
「御御亭の魔法使いによく正面切って『利用します』って言えるな」
「お嫌?納得できない?ならこちらにも考えがある。入門を認めてくれないなら、大声で異端審問官を呼ぶわ」
「分かった、分かったよ!」
なんて恐ろしいことを言うんだ。入門届を再び不承不承貰い受ける。同時にとてつもない面倒事を背負い込んだような気がして顔を青く――「全然納得してないじゃない」ドアに指をかけた赦免花は薄桃色の唇、口角を上げる。
「行きましょう」
「どこへですかねお嬢様」
「赦免花とお呼び。そんなの敬太郎の不安を解消する場所に決まってるじゃない」
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