第十三話 異端審問会ー②

 ツタの絡まる鉄格子をよじ登り、校舎の窓枠に指をかける。ぶら下がった状態で白いレンガの壁を蹴り、勢い付けて廊下に飛び込んだ。


「やい異端審問官共!あの爆発事故は私のせいではない!六碌亭の奴らが痺れを切らして起こした事件だ!!裁判にかけるなら絶対そっちだぞ!!」


 窓の高さまで浮かび上がったそれは「そのような事実は見られなかっタ。御御亭敬太郎が犯人で間違いなイ」と告げ、激しいトルクの音、壁に激突した。白レンガは砕け散り、組み込まれた防御魔法を破壊し、土埃の中、赤い光点が私を捉えて離さない。無傷だった。


「くそっやはり話し合いで解決できんか」


「裁判はある種話し合いダ」


「あれのどこが!!」


 『疑わしき者は罰せよ』現代の魔女裁判もそれは変わらない。捕まった時点で刑の執行は確定してしまう。


 右腕が振るわれ、土埃が掻き消える。露わになったそれに指を向けた、腹痛魔法だ。これを食らって動ける魔法使いはいない!


 一歩。


 即効性にしたのにそれは動く。


「お前も読者か!お買い上げありがとうございます!」


 捨て台詞と共に、廊下を走り出す。背後からは同等かそれ以下の速度の足音、振り返れば走りにくそうなそれがいた。


 レンガで囲まれた長い長い廊下。教室の扉が点々と続き、視界の中腹ではT字路となった廊下が見える。


 しめた。あそこで巻いてやる。


 体力消費を高め、足の回転数を上げる。速度を上げたのに、重い衣擦れの音は一定距離を保っていた。振り切れないか。もう曲がり路はすぐそこ。スピードを殺さず姿勢を低く、ぐんと直角に、


「っ!!」


 ローブを纏う、背後のそれと瓜二つの魔法使いが立っていた。


 手には縄、待ち伏せだ。踵を返し、すぐ床に手をついて足を狙う縄から逃れる。転がり壁に身体打ち、次は直線に走る。


 後ろに目をやると二人が続く。走れど走れど離れそうにない、だが追い付くこともない「走力が全く同じってこともあるまいに」。


 次の角。


 三人目の参戦を警戒しつつ曲がり、だがいない。二度目の加速には足腰の疲れが出る、後ろにそれはまだ見えなかった。


 ここで距離を離して、離して……離した後は?


「うおっ!?」


 思考の穴を埋めんとする思考は阻まれる。腕が引っ張られ、よろけながら教室に入った。扉をぴしゃりと閉め、耳をそばだてる少女は何か言おうとした私の口を手で直接封じた。


 沈黙が一分から三分。


 扉にはめたすりガラスの小窓から顔半分を出す少女、溜息をついて「もういいわ」と手を伸ばした。


「お久しぶりかしら。御御亭敬太郎ごおんていけいたろう


「君は々堂どうどうの」


 差し出された手を握ると彼女は軽く笑った。


 々堂で会った、うちが出してる自由帳を買ってくれた新入生だ。

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