第九話 原初の本ー①
『続いてはァこの一門ッ!誰が呼んだか解道の王、百年前に冠を捨てど未だその実力は健在!!七座は一席、御御亭ッッ!!』
マイクのハウリングに顔をしかめながら私と正之は入場する。
歓声も拍手もまばら。ついさっきの盛り上がりが嘘みたいに――鼓膜がびりびりと震える。
スペシャルゲストの登場に狂喜乱舞し、絶叫するはほとんど女性の声。歓声が注がれるのは私ではなく、隣の彼だ。
そりゃあ大不人気一門の紹介かと思えば大人気魔法使いが手伝いに来てるのだ、反応に波があって当然。
「毎年似たようなリアクションだよなあ。先輩たちから共有されないのかね」
「初見勢のリアクション見たいからしないんじゃない?」
「新入生のことを初見勢って言うな」
円形の闘技場をぐるりと囲む、段々になった観客席。顔を火照らせ手を伸ばし、皆々正之を狙い席飛び越えて闘技場に跳び込まんとする。
びたんと女魔法使いたちは観客席と闘技場の境目に顔や手を押し付けるが、内部に入ることはできない。非常に透明度の高い防御魔法にぶつかったらしい。
獰猛な獣の姿を見る度正之の足が震えた。
いつの間にか傍には黒子姿の紹介会運営がおり、マイクを差し出される。
「師匠を見なかったか」問いに運営は首を振る。あの魔法使いのことだ、私がつつがなく紹介を進行させるところまで計画の内で、よきところでやりたいことをするのだろう。
だからここで捜索に向かうのは想定外。
「えーご紹介に預かりました御御亭。私は御御師匠の一番弟子、敬太郎でございます。魔法使いで知らぬ者はいないでしょう、目立ってますからね。無論悪い意味で」
「大魔法使い一人に魔法使いが一人。弱小一門かと思えば七座にどっかり座ってる。七座かと思えば現代で実力はないに等しい。まあ変な一門です。実力を磨きたいわけじゃないけど既得権益にあやかりたい、魔法を上達させたいけど大きな一門は正直怖い。そんな方にオススメなんじゃないですかね」
「……我が一門が栄華を極めたのは百年以上前。新入生諸君は知る由もない、解道と魔道が対等であった争いの世――これから制限時間たっぷり御御亭の栄光を語っても良いのですが、諸君ら若い世代には昔話ではなく歴史の授業になってしまう。座学を嫌うは魔法使いの本能、ここは一つ実践にて解道がどれだけ優秀な盾であったかをお見せしましょう」
正之を軽く叩いてやると、多少青い顔のまま頷き、円の反対側、真っ直ぐ私から離れた。
張り巡らされた防御魔法を解き、無理にでも彼に声を掛けたい獣たちは位置的な接近に興奮し、恋愛的お誘いには思えぬ声量で口説き始める。
「可哀想に」私が壁側に行けばよかったと思う。刹那、杖を構えた。
「も、『燃え盛れ』」
火炎の柱が渦巻き、遥か彼方、天井の防御魔法を触れて、ちろちろ火の粉を吐き出し揺れている。
獣は息を飲んだ。代わりに歓声が上がる。彼の青い瞳は橙の火炎が反射して、鈍く輝く。
「『燃え狂え』」
煌々とうねるそれは黄色く、白く、そして青く。
噴き出す炎の枝は正之の青髪を掠め、燃え移り、されど焦がすことはなく、傘に乗る水玉の如く、頭上で火の玉が燻っている。
「『君臨せよ』」
青炎の柱を碧き顎が食らい、蒼きかぎ爪が破り、葵き尻尾が割り飛ばす。
炎が霧散し現れたるは彼の髪と同じ色の竜。鱗があって、一対の翼があって、赤いまなこがごろごろと蠢く、身体が二足歩行の巨大な青トカゲ。
「やっぱり登場シーンは格好良くないと」
彼が口角を歪ませると、竜は口から青炎を咆哮する。
性格に難のある彼が次期当主に選ばれたのは簡単な話。実力が桁違いだから。
「ゲーム脳め」
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