第2話 帰郷


バスが不規則に揺れながら私を運んでいる。

流れていく景色はいつまでたっても森ばかりだ。

今、私は三拝村へと向かうバスに乗っている。あのメールを見てから脳内にはこの村のことばかり渦巻いていた。私の幼少期。ちょくちょく見る朧気な夢。

かつての私が暮らした村に行けば何かを思い出すかもと思い立ち取材の名目で訪れることにした。もちろん旅費やらは経費でおとすつもりである。


三拝村は田舎も田舎でバスもそこまで走っておらず、道路の整備もあまりされてないようだ。漫画やらアニメやらで見るようなコッテコテの自然溢れる場所らしい。


…だったのだが、最近村の外から来る人のために大きなホテルが作られたらしい。上司のメールによると、誰が出資、経営しているのか?どのような外観なのか?謎に包まれているらしい。ネットで調べても、利用者の声やそのホテルの情報はろくに集まらなかった。


バスは私とその他数人の客を乗せてボコボコの道を走っていく。少し前に座っているのは人の良さそうなお爺さん。最前列には男女のペア…学生さんかな?が座っている。

その他に客はおらず今から行く村がどれだけ過疎ってるかは想像に難くない。


視線を外に移す。

景色は変わらず、青々とした木が何本も通り過ぎていく。

…何だろうな。この景色。

何でもない景色のはずなのに私の胸の奥底から焦燥に似た感覚がわき出てくる。

ここに居ていいのか?と誰かに言われているような…


頭を振って、焦燥感とも言えるこの感覚を払う。

良いに決まってる。そもそもこんな気持ちを払拭するために私はここに来たんだから…

バスが揺れている。

ゆっくりと三拝村へ向かって。



だだっ広い駐車スペースに到着する。

暑い陽射しが私を焼こうと躍起になっている。蝉の鳴き声が更に暑さに拍車をかけているように感じる。


あぁっぢぃ……

何なん?こんな暑いの田舎って?

死んじゃう…死ぬ時はインドアでクーラー効いたところで死にたかった…


ふらふらと足元がおぼつかない私の肩に誰かが触れる。

「すみません。お嬢さん落としましたよ」

振り返るとバスに同乗していたお爺さんが私の革手帳を持っていた。

「あれっ!…本当だ」

ポケットにいれてた筈が落ちてたのか。

「すみません。ご親切にありがとうございます」

「いえいえ…あなたも旅行で来られた方ですか?」

「えぇっと…まぁそんな感じです」

仕事だけど、ソースは本当に眉唾だからなぁ。どうせ何も起こらないだろうし。

「そうですか…良い旅を」

そう言うとお爺さんはホテルに向かって歩いていった。


件のホテルは非常に立派で高階層に宿泊した客はさぞや良い眺めを楽しめるだろう。外観は非常に綺麗でまるで昨日建てた新築のようだ。


私も暑さにやられないうちにさっさとホテルに入ろう。先のお爺さんと同じくらいのスピードでのろのろとホテルに向かう。


ホテルの前からはこの村、三拝村の全景が眺めることが出来た。多くの民家と、図書館と思しき場所、商店、海の家…

それぞれの建物を見ると私はそれらがどんな建物なのかうっすらと思い出してきた。

…やっぱり私はこの村で育ったんだ。

何故私はこの村を離れたんだろう。


太陽がジリジリと私を焦がしていた。

その暑さが何故か私には懐かしかった。

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虚ろなアオ @akboukun

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