虚ろなアオ
@akboukun
第1話プロローグ
暑い日だった。
汗が顔を伝って地面に染みを作る。
誰かに呼ばれている。
男の子のような、女の子のような、
誰かが私を呼んでいる。
私はそれに応えたくて、追いかけようとしたけど
誰かの手が私を引っ張って連れていってしまった。
連れていかれる最中も私を呼ぶ声はずっと聞こえていた。
ジリリリと耳障りな音がすぐ側で鳴り響いている。
「……」
頭を掻き、のっそりと体を起こす。うるさい友人を片手で黙らせる。
「もう、起きましたよ…」
欠伸を噛み殺し、洗面台に向かう。
歯を磨きながら、鏡を見る。ひどい顔だ。あの夢を見た日はいつもこうだ。
小さな頃の夢。
誰かに呼ばれている。ただそれだけの内容の夢。
大人になっても鮮明に残った、それでいて曖昧なままの夢。
私は子供の頃誰かと…何かを…約束したような…
朧気な記憶はいくら思考しても形にならずモヤモヤとしたまま、私の心までもやつかせる。やめだやめ。
気分を切り替えて、朝食の準備をする。袋に入った食パンをトースターに突っ込み、切れかけのジャムのビンと牛乳を冷蔵庫から出す。あとは焼けるのを待つだけ、
「家事の出来る女ですねぇ」
家事の報酬として自らを褒める。よく出来た子ですねぇ。
一人芝居が終わったら溜め息を吐いてパソコンを立ち上げる。
真っ白なメモと真っ白な清書、なんて綺麗なんでしょう。清々しい気分になります。
更にパソコンには何十通かのメールが、『締切は○日ですが進捗はどうかな?』『優秀な君のことだ。もう終わってるんだろうね』『朝桐君は自慢の部下だよ』等々。
寒々しい気分になります。
朝桐というのは私の名前で、この嫌みったらしいメールは私の上司。私の心中や状態を知ってか知らずかこうやって発破をかけてくる優しい人です。涙が出そう。
次の雑誌に載せるオカルト原稿に使えそうな者を色々探ってはいるがどれも棒にも箸にもかからない。
「私の創造力の泉は涸れたのかぁ…」
出て~
出てきてアイディア~
変な夢見てる暇があるならお化けの1つでも夢に見ろよ私のポンコツ脳ミソ。
ガシャン!という音と共にパンが飛び出す。ビックリしてマウスを落とす。
自分が焼いたパンにすら脅されている。笑っちゃうよな。
マウスを拾い、パンを皿に取って朝食を食べ始める。パンをかじりながらボーッとパソコンを眺める。
ディスプレイには上司からのメールが開かれている。マウスが落ちたときにどれかのメールを開いたんだろう。
『三拝村の発展の裏に…?』
内容は根も葉もない噂話程度の物だった。が…
「みおがみむら…?」
その名前が私の心に引っ掛かる。
どこかで聞いた、
懐かしい言葉。
ネットで三拝村を検索しまくる。
その村は
かつて私が住んでいた小さな小さな村。
記憶の片隅に残った私のルーツだった。
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