第3話 ~死の真相~
ひき逃げ事件によって亡くなってしまった僕の母・雨森美彩。その死の真相を暴くために、犯人を見つけて復讐するために僕こと雨森宏斗は1人で調査を始めた。しかし、犯人の手掛かりはなかなか見つからず...。一方、警察もこの事件の調査に乗り出す。いったいなぜ母は死ななくてはならなかったのか...母の死の真相が幕を開ける。
悠作と母の死依頼久しぶりに笑えた夜を過ごした僕は、その翌日に警察から連絡を受け、仕事の後に署に向かった。
その場に着くと、2人の警察がいた。齋藤警部と尾花巡査が僕を待ち受けていた。
「単刀直入に言うと、犯人が分かりました。」
齋藤警部は落ち着いた表情で話した。僕は驚きで動揺が隠せなかった。
「誰なんですか、犯人は...?」
「落ち着いて聞いてね.........」
齋藤警部は僕に母の死の真相を話し始めた。
― 美彩の亡くなる前日 ―
雨森美彩の亡くなる前日、美彩の会社では2人の男女が休憩室でこそこそと話していた。
「金、横領できたか?」
「できたよ!これで二人で楽しく暮らせるね!」
「ばれてねえだろうな、もし金を盗んだことがばれたら...」
そこにちょうど美彩が入ってきた。
「こそこそと何をしてるんだか...真面目に働けばいいのに...」
2人は動揺した。横領したことがばれたと思った。
「すみません、このことは内密に...」
動揺した女がそう言った。美彩は冷静に話した。
「ちゃんと上に報告します。」
美彩はその場を去った。2人は人生が終わったと思い、動揺していた。
― 美彩の亡くなる当日 ―
前日に横領がばれたが、すぐには会社から追放されることはなかった。この日は休日だったため、前日の件で落ち着かない男は一人でドライブをしていた。その時、ふいに目の前に自転車に乗る美彩がいた。男は衝動的にアクセルを強く踏み、幅寄せした。美彩は車とぶつかって、よろけるように転倒した。
これが雨森美彩の死の真相だった。
「つまりその男が犯人だっていうことですか...」
僕は、悪いことをしてない母がなぜ死ななければならなかったのかと思った。母がただ不正を暴いただけなのに...
「まだこの話は終わってない。」
尾花巡査は僕の険しい顔を見てそう言った。
「どういうことですか?」
僕は困惑した。犯人は明らかに暴かれている。僕は今にも復讐したいと思っていた。
― 美彩の亡くなった数日後 ―
美彩が亡くなった後、男と女は横領の処分を受けなかった。美彩の葬式が終わった後も上層部から何も言われないため、とりあえず仕事を続けていた。
しかし、ある日会社のお金が一部無くなったと判明し、会社中で色々な対応が行われていた。会社中で噂が起こり、管理体制に疑問を持つ人もいた。横領した男と女はすでに上層部に横領がばれていると思っていたが、そうではないらしい。もしかして雨森美彩は上司に報告をしてないのかと思い、横領した男と女は上司に聞いた。
「すみません、亡くなった雨森さんが生前、何か報告してませんでしたか?」
このように聞くと、驚きの返答があった。
「報告?...雨森から確かにあったぞ。」
「お前ら二人付き合ってるんだってな...それを聞いてびっくりしたよ。全然気が付かなかった。それで、うちの会社は社内恋愛禁止だけど、2人の交際を許してやってくれってあいつに言われたよ...そういうことだから、亡くなった雨森のために末永く幸せでいろよ!」
男と女は驚愕した。まさかそもそも横領したことはばれておらず、しかも雨森さんは自分たちの幸せを願っていただけだったことにショックを受けた。
悪いことをしたのは自分たちなのに雨森さんを死なせてしまった...
後悔の念に駆られた男はちょうど美彩の捜査に来た警察官である齋藤警部と尾花巡査に自首したのである。
「そんな...」
僕はうなだれた。母の優しさに対してあの男は殺人まで犯した。男への復讐心が募っていった。
「その男のところまで案内しろ」
僕は強い口調でそう言った。今すぐに復讐はできないとはわかっていたが、男の顔を一目見たいと思い警察に迫った。
「そんな急にできません...」
「その男のところまで案内しろ!」
僕の声が署に響き渡る。僕は感情が高ぶり思わず母の死の事実を説明した齋藤警部の胸ぐらをつかみ、にらみつけた。
「おい、やめろ!」
尾花巡査が僕を止めにかかる。その間、齋藤警部は顔色一つ変えずに僕を見ていた。すぐに尾花巡査が僕を振りほどき、それでも暴れるのを止めない僕に齋藤警部が言った。
「雨森宏斗!」
齋藤警部の声が部屋に響き渡る。僕はその声に驚き、高ぶっていた感情が少し冷めたのが分かった。そして、齋藤警部は一転して冷静になり、僕に向かって話した。
「この話はまだ終わっていない。」
「雨森美彩さんは病気だった。病院によれば癌だそうだ。」
僕は言葉を失った。ただでさえ犯人が分かったばかりなのに、僕の頭にはなかった母親の病気まで出てきて、混乱していた。色々な感情がごちゃ混ぜになり、警察の話についていけなかった。
混乱した僕が落ち着くのを待ち、齋藤警部が話の続きを語った。
「雨森美彩さんは◩◪病院に一年ほど前から通っていた...」
― 約1年前 ―
「とても言いずらいのですが、あなたはすい臓がんのステージ4です...」
今、私こと雨森美彩は余命宣告を受けました。
最近、急な背中の痛みや下痢が頻発するようになり病院に行きました。すると検査入院と言われ、息子も心配していましたが、私自身は大したことはないだろうと思っていました。
余命が1年ほどだろうといわれ、現在の医療では治すことは難しいだろうともいわれました。
私はこの時、今までの人生の罰が当たったのかなと思いました。自分の息子にあれほどの苦労を負わせてしまって悔いています。
もし1日でも長く生きたいのなら入院したほうがいいといわれましたが、幸い薬を服用し、定期的に検査をすれば入院も必要ないといわれました。息子に迷惑はかけたくないので病気のことは内緒にし、いつ死んでもおかしくない状況を選びました。
「母さん、大丈夫だった?」
入院している私のもとに息子が来ました。
「大丈夫、ただの胃腸炎だって!」
元気であることを装うのは心が痛かったですが、病院の先生方にも理解いただき、息子には病気を隠していました。
「あと何日かだけ、入院が必要だけど心配ないって先生に言われたから平気、平気。」
息子は安心して自宅に帰ってくれました。
何とか普通の生活に戻った私ですが、病気のことを会社には説明しとかなければなりません。
「社長、申し訳ありません...」
元々部長であった私は社長との面識があり、直接話に行きました。
「君みたいな優秀な人が病気とはな...」
社長は目線をそらし、悲しみの表情になっていました。
「仕事はどうするんだ?」
「しばらくは続けたいと思います。医師の方にも許可はもらっています。」
社長は何かを考え、私に提案をしてきました。
「もし営業職がきついのなら事務に変えることはできるぞ...」
私は少し考えて、結論を出しました。
「お気遣い感謝します。よろしければ事務に変更させていただきたいです。」
それからは息子に病気がばれないようにしながら、同時に死んだときのことを考えて行動することにしました。
― 現在 ―
「男の乗った車に美彩さんの自転車がぶつかり、身体の弱っている美彩さんは衝撃に耐えられなかったようです。」
齋藤警部はすべてを僕に話してくれた。
僕は齋藤警部の話を聞き、母を殺した犯人の事よりも母の病気を知らなかったことのほうが心の中に強く感じた。
「もし僕が母さんの病気を知ってたら...母さんのことをちゃんと見ていたら...」
僕は泣き崩れた。悔しかった...悲しかった...母さん...母さん...
きっと母さんのことをちゃんと見ていたら結果は変わったのかもしれない...
いや、きっと変わらなかっただろう...
だからこそ母さんを失ったことが悔しい...自分が憎い...
齋藤警部が泣き崩れる僕に向かって話し始めた。
「美彩さんの主治医の方から手紙を預かっている。」
そういってポケットから手紙を取り出し僕に手渡した。
君と涙を流したい @gerbele
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。君と涙を流したいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます