第2話 ~母の死~

 僕こと雨森宏斗は平凡な人生を送ってきたはずだった、高校1年の頃の記憶が無くなってしまったことを除いて...

 しかし、母の死をきっかけに平凡な人生に終わりを告げ、母の死の真相を探し出すことにした。僕の人生はこれから一体どうなるのか...



 悠作と母の死の後に再会し、居酒屋でお酒を飲んだ。その翌日の土曜日、僕は警察署に向かった。現在の状況を知るために話を聞きに来たのだ。

 「後藤と申します、この度はご愁傷さまです。」

警察の後藤さんが丁寧にあいさつをしてくれた。

 「雨森さんのお母様の件ですが、防犯カメラや目撃者の証言を基に捜索しておりますが、手掛かりは少なく犯人逮捕まで時間がかかると考えてください。」

僕は警察が機能していないことに腹を立てた。母が死んだのに犯人たった一人捕まえられない警察にいらだっていた。

 「まだ捕まえてないんですね...捜査はどこまで進んでるんですか?」

 「すみません、捜査情報は明かせないものとなっています。」

 「被害者の息子なのに何も知らないままなんですか?おかしくない?」

 「すみません...」

警察は困った様子で何も答えなかった。

 「車種とかナンバーも分からないんですか?母を殺した奴は今も逃げてるんですよ?」

僕は警察の対応に腹が立ち、声を荒げて話していたため、警察は少し周りを気にするような仕草をしていた。

 「僕からは何も言えません...。もし、情報が欲しいなら事故現場付近に行ってみるのはどうでしょうか?例えば、現場のそばにあるカフェとか...」

僕の睨みが効いたのか警察は口元を抑えてそのように伝えてきた。僕はこの後すぐに事故現場に向かった。


 「黒のセダンだったかな...ナンバーは見えなかったのよね...」

僕は母の事故現場に向かった。そこで事故現場のそばにあるカフェの店主に話を聞いていた。

 「ちょうど店に客がいなくてね、外を見てたんだけど、そしたら事故が起こって...君はどうしてこの事故を調べてるの?」

僕は無表情で質問に答えた。

 「事故で亡くなったのは僕の母なんです。」

カフェの店員は僕を憐れむような眼で見ながら言った。

 「そう...これは言うべきかわからないんだけど、事故はもしかしたら故意に起こったかもしれないの...かなりのスピードで突進してきたみたいで...」

僕はこの話を聞いて余計に復讐しようと躍起になるのだった。そしてカフェの店主にさらなる情報を求めた。

 「私が見たのはすべて話したわ...ごめんなさい。」

僕が情報を強く請求したせいか、申し訳なさそうに話していた。


 カフェの店主に話を聞いてから数日たった。しかし、警察からの犯人逮捕の連絡もなく、新しい情報もないまま時間だけが過ぎていった。

 そんなある日、僕はいくら復讐を志していても、給料が無くなってしまってはいけないと思い仕事は休んでいなかった。そんな時に仕事中に一件のラインが入った。悠作からだった。

 「今日の夜、会える?いつもの居酒屋で...」

 「いいよ」

僕はそう返事をした。いつもの悠作なら、「今日酒飲もうぜ!」とか「飯行こうぜ!」というように送ってくるので、僕は悠作がよそよそしく感じ、何かあるんだろうなと思った。


 夜の7時、仕事終わりにいつもの居酒屋に僕はいた。店の扉を開くと暗い顔をした悠作が座っていた。その日は貸し切りの看板が店前にあり、勇作が何か重要なことを話したいのかなと勘ぐっていた。

 「店の前、閉店中になってたけど、どうした?」

 「宏斗、来たか...今日は大事な話があるから貸し切りにしてもらった。」

 悠作は表情が暗かった。大事な話とは何だろうか?...

 「なあ、宏斗...実はお前が心配でさ、宏斗が事故現場のところにあるカフェに行ったって聞いたんだ。そこで色々聞いたんだってな...」

 僕は困惑した。まさか悠作にこのことが知られていたなんて...

僕は少し口調を荒くして聞いた。

 「そうだけど、なんで悠作が知ってんだよ...」

 悠作は何かを決心したかのように話し出した。

 「実はさ、あのカフェをやってるのは俺の知り合いなんだ...それでそいつから話を聞いて...」

 僕はふっと息をつき、悠作に呆れる。

 「わざわざ店を貸し切って話す内容ってそれだけ?深刻そうな顔してたから何かと思ったよ!」

 「ごめん、宏斗の母さんが死んでから、元気なさそうだったから...、思いっきり酒飲めるように貸し切っといたんだよね〜」

 僕は悠作の優しさに安心していた。ただ、一つ気になることがあった。

 「ていうか、カフェの店主とどういう関係なの?」

悠作は先ほどとは正反対の明るい表情で話し始めた。

 「実は、元カノの母親なんだよね...中学校の時の元カノなんだけど、今も普通に友達でさ、話聞いててもしかしたら宏斗かもってなって...」

 「そんな偶然あるんだね。」

 「それで、宏斗は何で情報聞きに行ったの?」

 「いや、なんというか...犯人見つけたかったからかな...」

悠作は僕を憐れむような表情で言った。

 「宏斗...あんまり無理するなよ。今日は楽しんでいけよ!」

 それからは居酒屋の酒をひたすら飲み、酔いつぶれた。翌日の二日酔いはきつかったけれど、母の死の後初めて楽しいと思えた瞬間だった。この時だけは、復讐のことを忘れられていた。


 この翌日、僕は警察から呼び出され、ある事実を知る...


~ 警察 ~


 警察では、雨森宏斗の母・美彩の件について捜査が行われていた。現在、警察の持っている情報はわずかだった。自転車に乗っていた美彩とぶつかった車は黒のセダン。ナンバーはわからず、防犯カメラもなしという状況では捜査も手がつけられなかった。

 

 そういった状況下で、齋藤警部と尾花巡査はこの件を担当していた。

 「事故処理にしようとしても運転手が逃げちゃったからな~」

齋藤警部は頭を抱えていた。事故を起こした運転手が逃げたことで、事故処理にもできない状況だった。ちなみに齋藤警部は超優秀な正義感の強い女性警官である。

 「どうして逃げちゃったんですかね~」

尾花巡査はのんきに言った。尾花巡査はまだ若く、一応イケメンであるため女性人気はある。

 「大抵、誰かを轢いたら怖くて逃げちゃったってパターンだけど、今回は何か引っかかるんだよな〜」

齋藤警部はあまりにも情報が出てこないことで違和感を感じたのかもしれない...

その後、2人は事故現場付近のカフェの店主に話を聞いた。


 「何回来ても新しい情報はないですよ...」

カフェの店主は呆れたように言った。

 「でもこの前、亡くなった息子さんが来ましたよ。事故当時の状況とか聞かれました。」

警察の2人は、目を合わせて何かを悟った。そして、尾花巡査が口を開いた。

 「その息子さんはどんな様子でした?」

 「そうですね...険しい表情をしていたかな...あまり覚えていないですね」

 

 警察はカフェの店主の元を離れた。警察署に戻る帰り道、齋藤警部が尾花巡査に話し始めた。

 「亡くなった方の息子さん、復讐しようとしてるかもね...」

 尾花巡査はうなずきながら話した。

 「どうにか止められないですかね、復讐...」

 「今できることは息子さんより先に犯人を見つけることしかないのよね...」

 齋藤警部は少し沈んだ表情で話し続けた。

 「もしくは、息子さんに接触するかだね...とりあえず亡くなった方の素性を調べてみましょう。」


 齋藤警部と尾花巡査は亡くなった雨森美彩の素性を調べ始めた。

 「離婚して一人で息子さんを育てたんだね...」

齋藤警部はデータを駆使し、基本情報を集めだした。

 「勤め先は...あそこか」

すぐに2人は雨森美彩の勤め先に向かった。


 「なんですか...あの件ならもう解決したでしょ?」

雨森美彩の勤め先・株式会社◇◇の社長が警察に応対した。

 「今日はあの件じゃない...雨森美彩さん知ってるよね?」

あの件とは1年前に起きたこの会社の女性従業員が日常的にパワハラを受けて自殺をした事件である。結局、証拠不十分でお咎めなしとなったが、厳重注意を受けていた。

 「うちの従業員だろ?最近亡くなった...」

 「そうだ。それで雨森美彩さんの素性を調べに来た。」

社長は少し困惑しながら話し始めた。

 「その従業員は事故死だと聞いていたが、事件ということか?」

 「その辺も含めて調べてるんだ。彼女はどんな人物だった?」

社長は一息ついて語り始めた。

「彼女は働き者で人望も厚かった。正義感も強く、会社では欠かせない存在だったよ...会社の中でも社員から尊敬されていたようだ...」

齋藤警部は冷静に社長に質問した。

 「事故直前の彼女の様子は?」

社長は平静を装いながらも少し険しい表情で話し始めた。

 「事故直前もいつも通り働いていたし、特にトラブルもなかったと聞いている。」

 「ただ、あくまで噂だが、ある男性社員と女性社員がもめていて、彼女はそれに関わっていたらしい。」

 「そしてもうひとつ、彼女についての話がある。衝突事故で死んだようだが...」


 その後、社長の元を離れた2人は雨森美彩の事件について、社内を調査した。その調査によって新事実が発覚する...

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