第58話 青柳時忠---side7

両家の顔合わせと同時に結納が行われ、何かに追われるように、そのすぐ後に、慌ただしく結婚式が行われた。



僕が連れて逃げるとでも思った?

できるものなら、そうしたかったよ。



式の最中、兄の隣に座る姫乃が、あまりにもきれいで、何度もトイレで吐いた。ずっと、ほとんど何も口にしていなかったから、胃液だけを泣きながら吐き続けた。



式の後、これ以上その場にいることなんてできないから、帰ろうとしていたのを兄から引き留められた。


話すことなんかない。

2人になったりしたら、兄に何をするかわからない。


こいつさえいなければ、僕の人生は変わっていたのに。

僕の方が後に生まれたからって、たったそれだけの理由で、僕には何もなくなった。


だから無視していたら、兄は、今まで見たことのないくらい真剣な顔で、僕の腕を掴んで離そうとしなかった。

それに、周りをやたら気にしながら、2人でいるところを見られないようにしていた。


なんなんだよ?


「時忠、今まで悪かった」

「何が?」

「全部。俺は、お前の方が全てにおいて優秀なことを知っていた。だから……それがずっと苦しくて、あんな事件を起こしてしまった」

「そんなこと今更どうでもいい。そんな話で引き留めたんだったら……」

「俺は姫乃さんのことを好きになった」

「なんだよ……それ」

「時忠、お前は家を出ろ。青柳の家を捨てろ」

「僕の大切な人を奪っておいて、今度は出て行けって?」

「違う。そうじゃない。この先、お前があの家にいるのは……彼女にとって残酷すぎる」

「それをお前が言う?」

「わかってる。俺にそれを言う権利はない。ただ、これまでの罪滅ぼしとして、絶対に彼女を幸せにする。必ず守り通す覚悟でいる」

「ふざけんなよ!」

「約束する、時忠」


兄の手を振りほどいてその場を後にした。



姫乃を好きになった?

約束する?

笑わせるなよ。



いいよな……お前はいつだって兄というだけで何もかも手に入るんだから……




式が終わると、2人は挨拶もそこそこに、そのまま青柳流にとって初めてのアメリカ進出となる地盤づくりのために、すぐに成田から飛び立った。


アメリカ支部設立のために、四菱銀行から多額の資金援助があったのは言うまでもない。

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