第57話 青柳時忠---side6

どうしても姫乃と会って話をしたかった。

それなのに、姫乃の電話は解約されていた。

姫乃の家に行っても追い返されるだけで会わせてもらえなかった。


姫乃は、学校にも来なくなって、卒業式にも出席しなかった。




姫乃の友達から、姫乃は自宅に軟禁状態だと聞きだした。

頼み込んで、頼み込んで、その友達のふりをして、なんとか電話で話せることだけできた。


「時忠、もうこんなことしないで」

「ふたりでどこか遠くへ逃げよう」

「私はあなたとは行けない」

「どうして? お金なら困らないよ? 僕は株で結構成功してるんだ。姫乃と暮らせるくらいの余裕はあるよ」

「違うの」

「言ったじゃないか、ずっと、愛するのは僕だけだって」

「他に、守りたいものができたの」

「それは何?」

「言えない」

「わからないよ。教えてよ。それが兄さんと結婚する理由?」

「そうよ。そうしないと守れないの。だから……忘れて、全部」

「……できない」

「私のためを思うなら忘れて欲しい。これから先、青柳の家で、何度も顔を合わせることになる。その時、私のことを今までみたいな目で見ないで」

「嫌だ」

「……私を、想ってくれるのなら、困らせないで」

「姫乃――」

「時忠はまだ学生だし、卒業して社会に出たら、これから先の未来、いいことがいっぱいあるよ」

「姫乃のいない未来に何の意味もない」

「さようなら。次に会う時は、私はあなたのお兄さんの奥さんだから」


それだけ言うと、電話は切られた。



なんでこんなことに?



あの家は、父は、僕から全てを奪う……

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