第55話 青柳時忠---side4

姫乃の卒業が近づいた頃だった。


「時忠、私……卒業したら……会ったこともない人と結婚させられる……昨日、父に言われた」

「そんな……」

「女だから……すぐに結婚しろ……すぐに……ふさわしい相手を……見つけるって……」

「大丈夫だから。そんなことさせないから」


姫乃は、ぽろぽろと涙をこぼしながら首を振った。


「時忠は、知らないから。父は、私のことなんて道具としか見ていない」

「僕がその相手になればいい」

「無理よ……」

「僕は、これでも青柳流の次男だよ。家柄だって悪くない」

「でも、時忠はまだ大学生じゃない」

「婚約すればいい」

「……本当に? そんなことできると思う?」

「姫乃の父親は銀行の頭取だろ? うちの親は絶対賛成する。すぐ父に言って、婚約を申し込むから」



判断を誤った。



「僕は一生、姫乃しか愛さない」

「私も。時忠以外に誰も愛したりしない」



彼女を想うあまり、冷静さを失っていた。

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