第53話 青柳時忠---side2

「えーーっ! 高校生だったの?」

「はい。自分が受験する大学の講義がどんなものか興味があって潜り込んでたんです」

「なんだ、そうだったんだ」


約束通り、一緒にご飯を食べながら、自分が大学生ではないことを話した。

名前を名乗ったら更に驚かれた。


「いけばなの家元の息子さんに、いけばなを語った自分が恥ずかしい……」


顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする姫乃を、年上なのにかわいいと思った。

姫乃はその時大学3年生で既に20だったから、高3で17の僕とは年齢だけ見ると3歳違いだった。


「ねぇ、だったらこんな時間になってしまって、ご両親は心配されるんじゃないの?」

「大丈夫です。両親は僕には無関心なので」

「そうなの?」

「はい」


姫乃は少し寂しそうに笑った。


「一緒だね。私の両親も私には無関心なの。帰ったらお手伝いさんが作ったご飯をひとりで食べるだけ」

「同じです」

「青柳くん、きょうだいは?」

「兄がひとりいます。兄は……跡取りとしてかわいがられています。姫乃さんは?」

「私は一人っ子」

「だったら、ご両親は大切にしているんじゃないですか?」

「ううん。父は仕事しか頭にないし、母は自分が楽しむことしか考えてない」

「そうですか。だったら、またこうして一緒にご飯を食べませんか?」

「いいの?」

「こっちこそ、いいんですか? ご飯を食べる友達がいっぱいいるんじゃないですか?」

「青柳くんと食べるのがいい」




『最初に誘ったのは時忠だったよ』

『でも、僕がいいって言ったのは姫乃だから』


そんなことを笑いながら話したよね。




ご飯を食べに行ったり、一緒に遊びに行くようになった。

姫乃は僕が受験生であることを気にしていたけれど、正直この大学に入るための勉強なんて僕には必要なかった。

本当は、もっと上を狙える成績だったから。でも、僕に選択する権利はなかった。

それでも、姫乃と出会えたことで、この大学に入るのも悪くないと思えるようになった。


ずっと、年の少し離れた友達としての関係が続いた。

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