第51話 澤田 瞬---side29
「何でオレ、澤田と飲んでるんだっけ?」
「それは、オレが誘ったから」
大島づてに風早を飲みに誘った。
風早は、今までは誰に誘われても断っていたようだったけれど、月島の婚約が決まってからは、誰かが誘うと相手が女じゃない限りは応じているようだった。
「そうじゃなくて……」
「風早と飲むのってあの時以来だよな? 風早って、酒強い?」
「まぁまぁ」
「そっか、じゃあ、後はよろしく」
「待てよ、澤田、弱い?」
「あんまり飲んだことないから限界を知らない。でも、風早のことは信用してるから」
「そこまで仲良くないと思うけど?」
そう言いながらも、2軒目も付き合ってくれている。
やっぱり風早はいいやつだと思う。
「なぁ、なんで誰かを好きになっただけなのに、失くすものの方が多いんだろ?」
「知るか、そんなの。オレに聞くな」
「あ! 風早、合コンセッティングしてくれよ」
「なんでオレが?」
「顔広そうだし」
「……澤田とはやりたくない」
「なんで?」
「……お前とは、多分、かぶる」
「何が?」
「澤田って、就職活動どうすんの? やっぱ先生?」
「長嶺商事」
「嘘だろ……教育学部だろ? 学校の先生じゃないんだ?」
「サッカーで引っ張ってもらって、内定をもうもらってる」
風早が笑った。
「お前、オレの部下になるんだ」
「風早も長嶺商事? だったら同期じゃん。同じ新入社員だろ?」
「違う。オレ、長嶺商事の役員だから」
「は?」
「せいぜいオレに媚売っとけよ」
「嫌だよ。めんどくさい」
風早は、しょうもない嘘はつかない。だから、こいつがそう言うんなら、本当なんだろう。そう言えば、こいつの家金持ちだった。祖父だったかがどっかの会社の会長って言ってたっけ。
「オレを誘ったのって、美雪の話聞きたいからだろ?」
「まぁ、それもないことはないけど、風早とは飲める気がしたから」
「何だよそれ。美雪は幸せだよ」
「良かった」
「あいつさ、いけばなのセンス壊滅的にないんだよ。なのに、オレにはあんなにうるさかった母親が、美雪のこと気に入ってんの」
紗香とは、あれから一度だけ校内ですれ違ったことがあったけど、目を合わすことすらなかった。月島とは卒業したらきっともう会うことはないだろう。
でも、こいつは、兄弟だから、月島と自分の兄貴を一生そばで見続けなきゃいけなくなる。
「風早って……好きだったよな? 一生隠し通すの?」
「知ってるよ」
さっき、酒が強いか聞いたら、風早は『まぁまぁ』と答えたけれど、さっきから強い酒を何杯も飲んでいる。
「多分、美雪はオレの気持ち、知ってて何も言わないでいると思う。まぁ、いろいろ事情があるから、『もしかして』程度かもしれないけど」
相手を想ってても、それを言葉にしないでいるのと、相手の気持ちを知っていて知らないフリをし続けるのと、どっちがしんどいんだろう?
「兄貴は、わかってると思う」
「それって……」
風早は、そのきれいな顔でオレに向かって微笑んだ。
「大学で、美雪と顔を合わせた時『久しぶり』って言ったのに、気づかれなかったんだ。中学の頃に会って話したことあるのに、向こうは全然覚えてなかった。先に出会ったのはオレの方だったのに」
「風早、やっぱ合コンしよう。セッテイングしてくれよ。大学の外にいっぱい女の子の知り合いいるだろ? とりあえず連絡先交換しよう」
「ナンパかよ」
「風早って、誰にも連絡先教えてないんだろ? オレを一番にしてくれよ」
「考えとく」
過ぎたことも、これから起こるかどうかわからなことも、今考えたって仕方がないから、その時が来たら、考える。
きっといつか、奇跡みたいな出会いがあるはずと、今は信じることにする。
澤田 瞬 END
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