第48話 風早 司---side9
「おい」
「部屋に入る時はノックぐらいしろよ」
「今までだってしたことなかったろ? 何やってんの?」
「見ればわかるだろ。本読んでる」
こんなに機嫌が悪い兄貴は、あの頃以来だ。
「美雪のこともういの?」
「……もうって、何かあったわけじゃない」
「いらないんだったら、オレがもらうよ」
「美雪は物じゃない」
バカなやつ。
お前は最初『美雪ちゃん』って呼んでたんだよ。『美雪』って呼び始めたのはだいぶ後なんだよ。
何なんだよ?
一番近くでふたりを見てきたからわかる。
お互い好きじゃん。
くだらない嘘つくなよ。
「なぁ、賢者の贈り物って知ってる?」
「オー・ヘンリーだろ? 知ってるよ。裕福ではない夫婦が、クリスマスにお互いの大切な物を売って、お互いのプレゼントを買う話。妻は夫のために長い髪を売って時計の鎖を買って、夫は妻のために時計を売って髪飾りを買う。お互いの用意したプレゼントは無駄になってしまうけれど、お互いがどんなに愛し合ってるかが伝わってくる物語」
「オレに言わせれば、そんなの愛じゃない。お互いが自分の想いをきちんと伝えてればそんな結末にはならなかったんだ」
「いろんな解釈があるよ」
「お金がなくてプレゼントをあげられなかったら、その愛は終わるのかよ?」
「なんとかしてプレゼントをあげたいと思うのも愛だよ」
「オレに言わせればこの物語はクソだ」
「……話が終わったんなら出て行けよ」
「自分で気づいてた? 最近の兄貴は、あの頃みたいだ。あの彼女とひどい別れ方した時の」
「出て行け」
「お前もクソだよ!」
部屋を出て、大きな音をさせてドアを閉めた。
美雪、オレと結婚するとか言うな。
いくら親の工場守るためだからって、簡単にオレを受け入れるな。
簡単にあきらめるな。
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