第45話 伊藤 紗香---side11
自分が嫌い。
あんなふうに言うつもりなんてなかったのに……
瞬が誰かを突き放すような態度をとったのも初めてだった。
その相手がわたし……
あの時何も言わなければ、月島さんに失恋した瞬が、わたしに振り向いてくれる可能性だってあったかもしれないのに、なんて考えたりもしてしまった。
そんなことありえないのに。
瞬はわたしを許さない。
ずっと見てきたからわかる。
ずっとずっと好きだったのに、ほんの少しの期待も持てない終わり方をされてしまった。
放課後だったから、校舎の中に人はほとんど残っていなかったけれど、誰かが聞いていたんだと思う。
『3角関係のもつれ』みたいな噂になった。
風早と月島さんが付き合ってるのを瞬が横から手を出したとか。
わたしが風早に横恋慕して月島さんから奪おうとしたとか。
月島さんが風早と瞬と二股かけてたとか。
嘘ばかりだった。
あからさまに顔を見てひそひそ言われるようなことはなかったけど、でも、本当のこと知らないくせに周りでいろんなことを言われてるのを、訂正することもできないのがくやしかった。
月島さんも風早も何も言わない。
それは、『月島さんが言ってたんだけど』とかそういう話が全然聞こえてこないからわかる。
もともと風早は自分のことを話さない人みたいだったけど、大学の誰とも仲良くする気はないようだった。月島さんを除いて。だから風早も誰かに何かを言ったりしない。
「ねぇ、紗香……」
「何?」
春奈は、何があったか全部知ってて、わたしの友達でいてくれる。
わたしが言ってしまったことも、失恋したことも、黙って聞いてくれた。
「小野さん覚えてる? 澤田くんのこと気になってるっぽかった子」
「覚えてる。チャンスだね」
「そうじゃなくて、小野さんがわたしに言ってきたんだ、月島さんのこと」
「……聞きたくない」
「聞いた方がいいと思う。小野さん、月島さんと同じ高校だったらしいから」
春奈は言いにくそうにしながらも話しを続けた。
「月島さん、テニス簡単に辞めたわけじゃないって」
「でも、辞めたことにかわりないじゃん」
「できなくなったから辞めるしかなかったって」
「え……」
「何回も怪我はしてたみたいだけど、その度に治してまたテニスやってたんだって。でも最後に膝をやっちゃって、できなくなったんだって。それで高2の時に高校自主退学したらしい」
「なんで?」
「スポーツ推薦で入ってたから、テニスできなくなっていられなくなったみたい」
「でもだったら大学になんで入れるの?」
「高卒認定とって受験したって。これは月島さんと仲がいい藤原さんが言ってた」
そんな……
「あと……月島さんは、ずっと好きな人いるから他の男に気を持たせるようなことなんか絶対しない。月島さんのこと勝手に好きになった澤田の方が悪い、って……」
「それ、なんで直接わたしに言わないで春奈に言うの……」
「直接言ったら、グーでなぐりそうだから、って」
「そっか。春奈、巻き込んでごめん」
「いいよ。わたしは紗香がどれだけ澤田くんのこと好きだったか知ってるし、友達なんだから」
「ありがと……」
自分が言ったことで、月島さんをどれだけ傷つけてしまったのか、わかったところで、もう取り返しがつかない……
それに意図したことじゃなかったけれど、まわりも巻き込んでしまった。
泣き続けるわたしを、春奈はずっと見守ってくれていた。
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