第40話 風早 司---side6

イベントスペースを手配してくれたのは兄貴だったから、兄貴が顔を出すのは想定内だった。

でも声をかけられた時驚いた。美雪を連れて来るとは思っていなかったから。


兄貴は正宗と少し話した後、店のオーナーにあいさつをしていた。



時忠に言われたからというわけじゃない。


兄貴は別として、せっかく来てくれたから。


ミセバヤのポットを美雪にやった。


美雪は喜んだ。


兄貴は、気づくだろうか? その意味するところに。




「あの人ですね」

「何が?」

「以前、見せてもらった学祭の画像の中に、一緒に写ったのがありました。彼女でしょ? 司さんの想い人」


2人だけで撮ったものはない。

だいたい藤原さんか、同じ学科の子が一緒に写ったものしかなかったはず。


「どうしてそう思う?」

「距離です」

「距離?」

「他の女の子たちと違って、少し距離をあけていました」

「それが何?」

「必要以上に近づかないようにしていました。それは、相手に気持ちが伝わらないためにですよね」


やっぱり、こいつは兄貴に似ている。

淡々としているように見せているだけだ。


「司さんとお兄さん、兄弟だけあって似ていますね」

「性格は全然違うよ」

「僕のところもそうです。性格は全く違いますが、外見だけは似ているんです。先日、兄に子供が産まれたんですが、きっと僕にも似ていると思いませんか?」

「似てるかもな」

「僕はもう恋愛なんてしません。その渦中になんて入りたくもない。それは司さんも同じでしょ?」


時忠の作品は、キンセンカの生花と一緒に繊細な飴細工で作られた花が使われていた。その根元にはチョコがかけられている。

正宗は飴細工の花をキャンディーと言ったけれど、そんな簡単なものじゃない。

飴細工で作られているから何の花なのかはわからないけれど、細い枝の先端に花がついている。飴細工にしたのは、この時期にはない花だからだろうか?

想像している通りなら、きっと、あれはブライダルベールだ。


こいつを兄貴に似ていると思っていたけれど、正宗の言った方が正しかった。こいつはオレに似ている。


「司さんの選んだ花って、全部、意味ありますよね」

「だから適当に選んだだけだって」

「ミセバヤ、この時期に紅葉しているものは、なかなかないですよね。だいたい新しい芽に備えて枯れてる時期だから。ミセバヤの花言葉って……」

「知ってるならわざわざ口に出すなよ」

「一緒にお酒でも飲んで語り合いますか? 僕、結構強いですよ」

「え? お前?」

「家では飲んでますよ」

「ああ……」

「一人暮らししているので、いつでも来てください」




ミセバヤの花言葉は、『大切に想う人』。



そうだよ、時忠。

彼女の幸せのためなら、オレは何でもする。

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