第39話 風早 司---side5

「ミモザ、ユリオプスデージー、プリムラ・ジュリアン、ゼラニウム、ミセバナ、パンジー……花のチョイスが独特だな。多肉植物も材料としてはめずらしい」


オレの用意した花を見て正宗が言った。


「そういうお前だって、花と合わせるのに用意したのって、フルーツとか観葉植物だろ? モンステラとか使うのは見たことあるけど」

「でも俺のはまだ大きく見れば植物のくくりだから。時忠なんてチョコレートとかキャンディーだし」

「それは、親が見たら倒れるな」



イベントで使う場所の手配に兄貴を頼った。

3人の中で兄弟が仲いいのはオレのとこだけだったというのもあったけれど、兄貴なら黙っていてくれるってわかっていたから。

親たちにバレない場所、それでいて希望の雰囲気に合う場所。

もちろん知りあいの学生サークルの活動という名目で、店にOKをとってもらった。兄貴は次期家元と言われているだけあって顔が広いし、信望が厚いから交渉もスムーズだった。



「これ、花の色にも意味があるんですよね?」


時忠がオレの材料を見ながら言った。


「ないよ」

「そうですか? 僕は、花へのアプローチに花の育つ環境や、新種なんかは生まれた背景なんかも考えるんです。あと、花言葉とか。司さん、なんだかむくわれないですね」

「適当に選んだだけだって」

「少しくらい脅してあげればいいのに」

「何言って……」

「脅すのは男の方ですよ。幸せにできないなら、自分がいつでも奪いに行くからって」

「時忠、お前そんな恋愛してきたの?」

「恋人を、兄にとられました」

「え……」

「正確には、彼女の親が結婚相手に選んだのが兄の方でした。政略結婚です。彼女より年下の僕より、青柳流の跡継ぎの方が良かったんでしょう。それでも、彼女が幸せでいてくれるならいいんです。でも、少しでも悲しませるようなことをしたら許さないでしょうね」

「そんなこと、つい最近知り会ったようなやつに話していいの?」

「嘘です」

「えっ?」

「嘘ですよ。案外騙されやすいですね。じゃあ、僕はまだ仕上げにチョココーティングが残っているので失礼します」

「花にチョココーティング?」


時忠はにっこりと笑って行ってしまった。



今のが、嘘?


青柳流の次期家元と言われる青柳時政はこの春結婚した。相手は銀行の頭取のひとり娘だと経済誌に出ていた。

後ろ盾が出来たから、青柳流は早速欧米に拠点を作るために動き始めた、とも噂になっていた。

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