第34話 伊藤 紗香---side7

精華女子大とは、今の4年生同士が仲がいいこともあって、他の大学より交流が多い。

女子大だからなのか、更衣室や、シャワールームがきれいで、設備も充実しているから、ここで練習試合ができるのは好きだった。

真剣にテニスをやっているという風でもなくて、そんなに強くないから、試合相手としても丁度いい。




まだ、向こうの集まりがまばらで、こっちもゆっくりしている時だった。



「何それ! サワダってやつサイテーじゃん!」



別に瞬のこととは限らないのに、『サワダ』という言葉に反応してしまった。

聞いたりしたら悪いとは思いながらも、会話に耳をすませてしまう。



「美結、さっさと帰ったのは、そんなことあったからだったんだ」

「わたしも酔ってたし、キスは別にいいんですけど、言われたことがムカついたって言うか、『ごめん、酔ってた』の方がマシだと思いません?」

「だね。他の女のこと考えてた、はないかな」

「ですよね? キスは、上手くて嫌じゃなかったんですけど」

「剣崎シメとくわ」

「何も言わなくていいですよ。わたし思いっきり引っぱたいてやったし」

「まぁ、啓修大のサッカー部とは2度とないね」

「やっぱり体育会系はダメですね。脳みそ筋肉だから」

「いえてる」



啓修大のサッカー部って…‥じゃあ『サワダ』って、瞬のこと?


瞬があの子とキスしたってこと?


キスが……上手い?


だって、瞬、今まで彼女とかいなかったよね?


待って……


キスだけ誰かとしたことがあるってこと?


上手いって?


でも、嘘を言ってるようにも思えない。



いろんなことが頭の中をぐるぐるまわる。


話をしているのは1つ学年が下の美結ちゃんで、わたしの中では、ふんわりしてかわいい女の子というイメージだった。

美結ちゃんの言ってる内容にも、いろいろ驚かされたけど、そんなことはどうでもよくなるくらい、瞬のことが気になった。


聞いてみる? でもなんて?

さすがにいきなりは聞けない……


じっと見ていたせいで、こっちを向いた美結ちゃんと目が合った。


美結ちゃんは、わたしに気が付くと、わたしのところへやって来た。

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