第31話 澤田 瞬---side23

酒、久しぶりに飲むせいか酔いが早い?

いろんなことが頭を回る。


「ちょっと……」


トイレにいくフリをしてスマホを持って席を立った。

この店は、トイレのある場所が客席から少し離れたところにあるから、誰にも見られずに電話をかけることができる。


「大島? 悪いんだけど、10分したら電話して」

「用があるなら今言えよ」

「今度ちゃんと説明するから。頼む」

「……まぁいいけど」

「ごめん」



オレは、一体何をやってるんだろう……



電話を切って振り返った時、美結ちゃんが目の前にいて驚いた。慌ててスマホをポケットに突っ込んだ。

電話、聞かれてないよな?


「澤田さんと2人になれるかと思って」


酔っているのか少し赤くなった顔で真っ直ぐにこっちを見てくる。


『やめとけ』そんな声が聞こえた気がした。


おれも彼女の顔を見返した。


無意識に左手で彼女が後ろで髪をまとめているクリップみたいな髪留めを外していた。


思っていたより髪は短かった。



去年の今頃、月島はまだ風早恭一とは付き合っていなかった。あの時もっと行動を起こしていたら、何かが変わっていただろうか?



そっと、右手を伸ばして彼女の耳のすぐ上あたりにふれたけれど、彼女は嫌がる素振りも見せず、じっとしていた。


それで、気がついたら、ふれていた手で彼女の耳の後ろあたりを引き寄せるようにしてーー


「みゆ……」


キスをしていた。


肩のあたりに彼女の指先を感じた。


こっちが求めるのと同じくらい、彼女も求めてくる。



その時、ポケットの中のスマホがバイブと共に着信音を響かせて、我に返った。

彼女から離れて電話のアイコンをタップした。


「大島だけど」

「あ……えっ?」

「お前が10分したら電話してくれって言ったからかけたんだけど?」


電話をしている間、彼女はずっとオレを見ていた。


「……わかった。急いで帰る」

「へっ? 何言ってんの?」

「大丈夫なの?」

「何が?」

「こっちは大丈夫。なるべく急ぐよ」

「だから何が?」

「じゃあ切るよ」


電話の向こうで大島が何か言ってたけれど、そのまま電話を切った。


「親から電話で、すぐ帰れって。足捻って動けないらしい」

「そう……心配だね。あの、わたし……」

「ごめん。他の女のこと考えながらキスした」


彼女の表情が軽蔑を込めたものに変わった。

と、同時に平手打ちされた。


「サイテー」


それだけ言うと、彼女は戻って行った。


「わかってる。最低だよな」




みんなのところへ戻って、親が怪我したから帰らないといけなくなったと嘘をついて、店を出た。


当たり前だけど、美結ちゃんはおれの顔を決して見ようとはしなかった。

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