第30話 澤田 瞬---side22
GWのちょうど真ん中辺りだった。
部活が終わって、シャワーを浴びる時に、同級生の剣崎が話しかけて来た。
「澤田は行かないよなぁ?」
「どこに?」
「合コン。急にひとり来れなくなって」
「なんで聞いておきながら行かない感じに言うんだよ?」
「お前彼女いるだろ?」
「いない」
「嘘だ。文学部の誰って言ったっけ……髪の短い」
「アレ、ただの幼馴染だから」
この誤解を解くために、どれだけ違うって言ってまわらないといけないんだろう……
「あ、じゃあ行く?」
一瞬迷ったけれど、迷ったところで結果はわかっているのだから、だったら早々に忘れる努力をした方がいい。
「行く」
「良かった! 助かる! 相手は精華女子大なんだよ」
精華女子大の何がすごいのかはわからなかったし、剣崎のテンションが高い意味はもっとよくわからなかった。
剣崎が予約していた店は、去年、文学部と教育学部で前期の打ち上げをした店だった。あの時みたいに人数がいないから、店員に案内されたのは小さな個室だったけれど。
「全員サッカー部で奥から、澤田、田辺、山口、で俺が剣崎」
「こっちは向こうから、美結、梨江、流奈、わたしが凛花です」
適当に料理を頼んで、お酒を飲みながら、趣味は何だとか、休みの日は何してるかとか、ありきたりな話になった。
「よく来るの? こういうの」
前に座っていた美結という子に話しかけた。
「誘われたから。澤田さんは?」
「初めて。オレ人数合わせに急遽参加した」
「そうなんですね」
「ねぇ、なんで敬語?」
「わたしだけ、2年なんです。澤田さんは3年ですよね?」
「そうだけど、大学違うし、タメ口にして。敬語使われると緊張する」
「あ、はい。じゃあ、そうします」
「ほらまた敬語」
「気を……つけるね」
「みんなどういう繋がりなの?」
「同じテニスサークルに入ってる」
「テニス?」
「何か?」
「啓修大と試合やったりする?」
「します。先週練習試合やったばかり」
「友達とかいる?」
「友達というか、話したりする人はいます。2年の子とか。3年では伊藤さん」
無意識にため息が出てしまった。
「何か失礼なこと言いました?」
「……違う」
こんな初対面の子に言うべきなのか? でもわざわざ自分から言うようなことじゃないよな……
「そう言えば、伊藤さんはサッカー部に彼氏がいるって。この中にはいたりしませんよね? みんなフリーって聞いてるから」
「それ誰が言ってた? さ、伊藤さんの彼氏がサッカー部にいるって」
「えっと、名前は知らないけど3年の人が」
「それ、伊藤さん否定してなかった?」
「特には」
嘘だろ……何で否定してないんだよ?
「それ、噂だから。伊藤さんと付き合ってるって噂されてるのオレ。でも、絶対付き合ってないから。その噂すごい迷惑してる」
「そう、なんですか」
「そう。だから信じないで」
「良かった。最初に会った時から、澤田さんいいなって思ってたから」
そう言うと目を逸らしてお酒を飲んだ。
「みゆ……美結ちゃん、一気に飲み過ぎ。そんなんじゃすぐに酔うよ」
彼女は、茶色の長い髪を後ろで結んでいて、袖がフリフリした白いニットを着ていた。
「髪の毛、長いんだ」
どうしてそんなことが気になるのか……
「気がついたら伸びてて」
「天パ?」
「パーマ。元はストレートです」
ゆるくカールした長い髪……
「澤田、グラス空じゃん。何飲む?」
「あー、チューハイのレモン」
「美結ちゃんは?」
「同じもので」
「わかった」
剣崎が甲斐甲斐しく動いていた。
部活の時は全然動かないくせに、こういう時はマメなんだ。
でも、オレもこのくらいマメだったら、今頃こんなところにはいなかったのかもしれない。
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