第29話 伊藤 紗香---side6
「ねぇ、次のサッカー部の休みいつ?」
いつものようにサッカー部のマネをしている咲良に聞きに行った。
「紗香ぁ、いい加減、澤田くん以外にも目を向けたら?」
「なんでいきなりそんなこと言うの?」
「だって、紗香がどんなにがんばったって全然進展ないし」
「そんなの、わかんないじゃん」
「そんな何年も好きでい続けるほどいいの? わたしにはその辺にいる普通のやつにしかみえないけど」
「わたしも、最初はただ話が合うから好きってくらいだったんだよ。でも、見ちゃったから……中学の時、サッカーの試合で瞬がPK失敗して試合負けた時があってね、瞬、泣いたんだよ。それで次の日から、ひとりでずっとPKの練習してた。何でも、人一倍努力するんだよ」
中3の時、サッカーでのスポーツ推薦の話が出た時、枠は1名で、瞬と、もうひとりが候補にあがった。
瞬は選ばれなかった。
それで瞬は、その高校に自力で受かるために必死に勉強をした。瞬は、そんなに頭がいいわけじゃなかったから、その高校に入るのは無理だって先生にも言われたのにあきらめなかった。
瞬は自分の力でその高校に入った。
そして、次はサッカー。
推薦で入ったそいつの何倍も努力をして、レギュラーを手にした。
瞬は絶対にあきらめたりしない。
そんな姿をずっと見てきた。
いつだって1番はサッカーでしかなかったけれど、サッカーに夢中な瞬は、誰よりもかっこよかった。
友達と試合を見に行ったことがある。
わたしが見に行ってたことなんて気がつかないくらい、瞬はコートの中にしか目が向かない。
でも、試合に勝った時のあの笑顔を、わたしだけに向けて欲しいって、思うようになった。
「瞬は、今はサッカーのことしか頭にないけど、いつか『彼女欲しい』とか思うようになるまで待つよ。その時そばにいたら『こいつがいたんだ!』ってなるじゃん」
「そうかな……澤田くんって、今まで彼女いなかったのかな……紗香が知らないだけなんじゃないかな」
「いないいない。サッカーバカだもん、あいつ」
「本当に? 隠してたのかもよ?」
「何? 急にそんなこと言って。いたら気づくよ。で、今度の休みいつ?」
「新入生入って来てからスケジュール組むから、まだわかんない」
「そっか。わかったらまた教えて!」
「うん……」
瞬が、どんなに月島さんのこと気にしていても、月島さんにはあんなかっこいい彼氏がいるんだから、大丈夫。
きっと、いつか、一番近くにいるわたしの存在に気が付いてくれるはず。
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