第27話 澤田 瞬---side20


「ただいま」


部活から帰ると、母親と姉がリビングのソファに並んで座って、きゃあ、とか、ねぇ、とか言っていた。


「何やってんの?」

「ああ、お帰り」

「これ」


姉が何かの雑誌の、開いたままのページを見せてくれた。


『おけいこ特集』というタイトルの下に『いけばな教室 風早流』と大きな文字で書いてあって、風早と風早の兄貴がモデルみたいなポーズをとった写真が掲載されていた。

前に見た時と髪の色が違う。風早も金髪だった。


「やっぱりイケメンねぇ」

「兄弟でかっこいいとかないわぁ」


書かれている内容を読んで、独身ですか? みたいな質問に対する、風早の兄貴の答えにイラっときた。


『今は、特定の相手とのことを考えるより、多くの方と時間を共有することで、刺激をもらいたいので。』


何だよこれ?

月島のことは遊びだって言うことかよ?


でもすぐに心配になった。

月島がこれを読んだらどう思う?


「弟さんもかっこいいのねぇ。あんた前に友達って言ってたわよね? 家に連れてきなさいよ。あ、でも、連れて来る時は1週間前に言ってよ。美容院行かないといけないから」

「ちょっと出てくる」

「え? 今帰って来たとこじゃない?」



気がついたらバイクに乗って、月島のバイト先に向かっていた。

会って、どうするつもりなのかもわからないまま。




月島のバイト先に着いて、店を覗いたけれど月島は見当たらなかった。

それで中の女のスタッフに声をかけた。


「すみません、今日月島さんは?」

「今日はお休みですよ」

「次、いつ出るか教えてもらえませんか?」


そこで、困惑した顔をされた。


「それはちょっとお教えできかねます」


そうだよな……

いきなりそんなの知らない男が聞いてきても教えないよな。


「すみませんでした」


謝って店を出た。

一体何がしたいのか自分でもわからない。

月島に会ってどうしようと言うんだろう……


バイクを置いたところまで歩いていると、後ろから呼び止められた。



「あの、ちょっと」


振り返ると、店の制服を着た高校生くらいの若い男が立っていた。


「月島さん、次は来週の火曜ですよ」

「え?」

「頑張ってください!」


それだけ言うと、若い男は店に戻って行った。



それだと、大学が始まる方が早い。

それまで何もできない。何かできるのかもわからないけれど。

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