第26話 澤田 瞬---side19

「今の誰?」


講堂に向かう佐伯の後ろ姿を見ながら、マネージャーの飯塚咲良が声をかけてきた。


「高校の時の後輩。来週からここの1年って。サッカー部入るってさ」

「へぇ。じゃあ上手い子なんだ」

「かなり」

「さっき2人が話してるの聞こえちゃった」

「ああ……」

「澤田くん、彼女いたんだ」

「昔」

「何人?」

「え?」

「今まで何人と付き合ったの?」

「なんで?」

「いいじゃん」

「2人」

「ふうん」

「飯塚って紗香と仲良かったよな? あいつには言うなよ」

「知られたくないんだ」

「めんどくさいんだよ」

「え?」

「あいつ、昔から、誰と誰が付き合ってるらしいよとか、あの子絶対あの人のこと好きだよとか、そういうどうでもいい話がうざくて。オレがちょっと一緒に帰っただけの子も、誰なの? とか、どっちが帰ろうって誘ったの? とか。とにかくいろいろ聞いてくるから」

「ああ……」

「そういうのがなかったらいいやつなんだけど」

「澤田くんは、紗香のことどう思ってるの?」

「幼馴染。もしかしてあの噂のこと言ってる?」

「噂?」

「オレと紗香が付き合ってるってやつ。絶対ないから」

「絶対ないんだ」

「紗香も迷惑してると思うし。あいつも早く彼氏作ればいいのに」

「澤田くんは? 彼女作らないの?」

「オレは……今は考えられない」

「失恋したとか?」

「……まぁ、そんなとこ。だからそんな気分じゃない。紗香に言うなよ」

「わかった。黙っとくよ。でも、ちょっとだけ興味あるから教えてよ。どんな子だったの? その好きな相手」

「なんでもない会話が大切に思えるっていうか……ずっと話していたくなる感じ」

「かわいいの?」

「顔? あー……かわいいというか、きれい」

「そうなんだ。どこが好きか聞いて、一番が顔じゃないんだね」

「考えてもみなかった」


顔で好きになったのなら、また他にかわいい子を見つければいい。

でもそうじゃないから、厄介なのか。

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