第25話 澤田 瞬---side18
「澤田先輩!」
「佐伯?」
「サッカー部入るんで、入学式終わったら、またよろしくお願いします」
「今年からうちの大学?」
「はいっ」
佐伯慎吾は高校の後輩だった。
啓修大学は、偏差値は高くないけれどサッカーは強い。だから入りたいという希望だけで部には入れない。「入る」と言い切れるということは、入ることを許可されるくらいの実力があるということになる。
高校の時から上手いやつだったけど、それがこの4月からはライバルになるってことだ。
「あの、先輩、まだ小渕先輩と付き合ってるんですか?」
「……なんでお前知ってんの?」
「小渕先輩の妹と同級なんで」
「なんだ。もうとっくの昔に別れたよ」
「そっか。だったら良かった」
「何が?」
「この前、小渕先輩が知らない男と仲良さそうに歩いてる見たから」
「ふうん。大学入って、最初の夏が終わる頃から会ってない」
小渕真奈は、高校の卒業式に告られて付き合った子だった。
かわいい子だった。
大学に入ってからもGWまでは頻繁に連絡を取り合って遊びにも行っていた。
お互い初めての相手だった。
でも、関係を持ってから何かが変わり始めた。以前と変わらないつもりでいたけれど、逆にそれがいけなかったのかもしれない。
「会えなくて寂しい」
そんなことばかり言われ始めた。
1年生でレギュラーに選ばれた時、一緒に喜んでくれると思っていたら、
「また会える時間がなくなる」
そう言われた。
土日はサッカーの練習でつぶれて、その後で会いたいと言われても疲れて早く帰って寝たいと思うばかりだった。「練習で忙しい」という言葉が増えていった。
そして、紗香の存在。
何度もただの幼馴染だと言ったけれど、同じ大学だから自分の知らないところで仲良くしているんじゃないかと疑われ、「本当に練習が忙しいの?」と言われた時、めんどくさくなった。
それでだんだんと連絡を取らなくなって、会うことも減って、いわゆる自然消滅というやつだった。
どうしてオレの言うことを信じないんだよ?
あの頃は、そんなふうに思っていたけれど、今ならわかる。
オレが、信じさせるだけの行動をとってこなかったからだ。本気で好きなら、ほんの少しでも時間を作れたはずなのに、それをしなかった。
ほんの一瞬、顔を見るだけでいい。何でもない言葉でも一言、二言、交わせるだけでいいのに。たったそれだけのことをしなかった。
オレの「好き」は、彼女の「好き」と違っていたことに、気がつくのが遅すぎた。
「じゃあ、俺これからオリエンテーションなんで失礼します」
元気に去って行く、佐伯の後ろ姿をぼんやり眺めた。
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