第23話 澤田 瞬---side17

大学の駐車場にバイクを停めて、部室に向かっていると、大島に会った。

大島はアカペラサークルというのに入っていて、4月の入学式で歌うことになっているから練習するために毎日学校に来ていると聞いていた。


アカペラなんて、ただ伴奏なしで歌うだけだと思っていたので、テレビで全国大会を見て、あまりのかっこよさに驚いた。


「そっちも今から?」

「まぁ」


声をかけると歯切れの悪い返事が返ってきた。


「なんかあった?」

「澤田、これやる」


澤田から差し出されたのは、かわいい箱で、蓋を開けるとチョコが入っていた。でも箱の大きさから見て中身は半分しか入っていないようだった。


「何これ? チョコ? え? 大島オレのこと……」

「んなわけないだろ」

「わかってるって。なんで半分?」

「半分は俺が食べた」

「まずいとか?」

「いや。うまい」

「え? じゃあなんで?」

「いいから、食えよ。全部やる」

「ありがとう」


オレが食べるのを大島はじっと見ていた。


「何これ? うまっ」

「だよな」


続けてもう一個口に放り込んだ。


「彼女の手作り?」

「違う」

「あー、他の女にもらったやつかぁ」

「まぁ」


最後の一個を口に入れた。


「めちゃくちゃうまい。くれたのどんな子?」

「月島さん」

「えっ?」

「もちろん義理チョコ。去年ももらったし」


早く言えよ……もっと味わって食べれば良かった……


「最後の晩餐」

「何それ」

「月島さん、風早の兄さんと付き合ってる」

「……いつから?」

「それは知らないけど、昨日見た。最初は向こうが忙しくて会えないらしいって聞いたんだけど、月島さんのバイトが終わる頃に来てて、2人で仲良さそうにしてた」

「でもそれだけで付き合ってるとは……」

「愛梨に聞いたから。今度は付き合ってるってはっきり言ってた」


オレは空っぽになったチョコの空き箱を眺めた。


「あれは、ちょっと敵わない。風早も女の子に騒がれてるけど、兄さんの方は、まるで芸能人みたいだった」

「そっか。月島楽しそうだった?」

「嬉しそうに笑ってた」

「そっか。しょうがないな。じゃあ、オレ部活行くわ。お前もがんばれ」


大島の返事も聞かずに、部室に向かった。

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