第21話 澤田 瞬---side15

言われた通り、KIRAという店に着くと、窓際の席に姉を見つけた。


「ほら、スマホ」

「ありがとう、早かったね」


スマホを交換して帰ろうとしたら、呼び止められた。


「ケーキ食べなよ。奢ってあげる。瞬、甘いもの好きでしょ」

「何? 怖いんだけど」

「ここセルフだから買っておいでよ。後でまとめて送金してあげる」

「じゃあ、買って来る」


チョコレートケーキとコーヒーを受け取って、お金を払っていると、隣のレジの声が耳に入った。


「あれ? 美雪ちゃん、帰ったんじゃなかったの?」

「ケーキ買って帰ろうと思って」

「店長に言って貰ったら良かったのに」

「そんなわけにはいかないです」

「真面目だなぁ」


横を向くと、やっぱり月島がいた。


「あ、偶然」


声をかけると、月島の視線がトレイの上のチョコレートケーキに注がれていることに気がついた。

やばい……恥ずいだろこれ……


せっかく超偶然出会えたのに、それ以上話ができず、席に戻った。


「ナンパ?」

「えっ?」

「レジのとこで女の子に声かけてたじゃん」

「同じ大学の子」

「知り合い?」

「まぁ」


オレの方は見ずに何かスマホでやり取りをしながら話された。


「わたしもう行くわ」

「いや、ちょっと待って」

「何?」

「客、女の人しかいないし、ひとりでケーキ食べるの恥ずいんだけど」

「ヘタレ」

「姉ちゃん?」

「お金、送金しといたから。じゃあね」


ありえない……


せめてもの救いは、出入り口に背を向けた一番奥の席ということだった。

とっとと食べて帰るしかない。

クリスマスに男がひとりでケーキ食べてるとか寂しすぎる……


「ごめんねー。ひとりでケーキ食べるの恥ずかしいとか言うのよ」


その声に顔を上げると、さっき席を立った姉と月島がいた。


「悪いけど弟に付き合ってやって」

「あの、ありがとうございます」


姉は手だけ振って店を出て行った。


「ここ、座っていい?」

「どうぞ」

「澤田くんのお姉さんが『一緒に食べてあげて』って。奢ってくださって」


姉ちゃん、神かよ!


「あ、そうなんだ。良かったじゃん。姉ちゃん金持ちだから気にしなくて大丈夫だよ」

「ありがとう。澤田くんは甘いもの好きなの?」

「……実は」

「それ美味しい?」

「めちゃくちゃ美味しい。苦甘くて。間に入ってるイチゴみたいなのも絶妙」

「嬉しい。それわたしが作ったから」

「えっ?」

「わたしここでバイトしてるんだけど、時々ケーキも作らせてもらってるから。今日もさっきまでバイトしてて」

「クリスマスなのに?」

「予定ないから」



クリスマスにバイトって、彼氏いないってことだよな?

あの男とは、まだ付き合ってないって、ことだよな?

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