第18話 澤田 瞬---side12

「あーもうっ」


朝かかってきた電話を切った後、母親がくやしそうな声を上げた。


「何?」

「午後のパートの人がさぁ、ぎっくり腰になったって。それで午前中のパート終わったらそのまま午後も仕事になった。せっかく招待状もらったから午後から行くつもりだったのになぁ」

「何の招待状?」

「ん? 風早流のいけばな展。次期家元って言われてる、風早恭一が来るっていうから見たかったのよぉ」

「母さん、いけばなに興味あったっけ?」

「……違う。風早恭一ってイケメンなの」

「ミーハーかよ。あ! 風早って、前に言ってた、うちの大学の風早?」

「そうよ。大学生なのは弟さんの方。でも、招待状に名前出てたから何かいけてるかもね。もぉ残念。招待状、誰か行ける人にあげよう」

「それ、オレにちょーだい」

「あんたに? いけばなに興味あんの?」

「いや……風早とはよく話すから、あいつの見てみたいっていうか……」

「ああ、そうねぇ、学校とはまた違った一面が見えていいかもねぇ。じゃあ、あんたにあげるわ」



風早司とは仲がいいわけじゃない。

でも、風早司の兄の、風早恭一をどうしても見てみたかった。

母親とは違う意味で。


学祭の日、月島といた風早の兄貴を、オレは後ろ姿しか見ていない。

あの後、ネットで検索したら顔写真はすぐに出てきた。風早と似ていた。兄弟なんだから当たり前なんだろうけど。


本物を見てみたかった。

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