第17話 伊藤 紗香---side5
中学に入ってテニスを始めて、一番最初に出た大会で、月島美雪に会った。
会ったと言うか、対戦相手だった。
先輩に「紗香ちゃんついてないねぇ」って言われた。
どういう意味かわからなかった。試合が始まるまでは。
だって普通の子に見えたから。
ショートカットの月島美雪は、わたしより日焼けしてるくらいで、背も同じくらいだったし、からだも大きいわけでもない。
でも、試合が始まってすぐに先輩の言ってた意味がわかった。
サーブが返せない。
ボールが見たことのない動きをする。
なんとか追いついても、今度はベースラインやサイドラインのぎりぎりにボールを返される。最初は偶然なのかと思っていたら、そうじゃなかった。狙ってるんだ……
あっという間に試合は終わってしまった。
「相手があの子じゃしょうがないよ」
そう言って、なぐさめられた。
月島美雪を見たのはあの一回だけで、後は会うことがなかった。でも、名前だけは、大きな大会でいつも上位にあったから忘れることはなかった。
高校に入ってもテニスは続けていた。
中学の時の月島美雪みたいに、自分が思ったところにボールを返すなんてことはできなかったけれど。
月島美雪の名前を耳にすることがなくなって、どうしたのかと思っていたら、怪我をしてテニスをやめたと噂で聞いた。
あんなに上手かったのに怪我くらいで簡単に辞めちゃうんだって、少し腹が立った。わたしだったら、怪我を治してもう一度やるのに。
そして、あの雪の日……
雪のせいでバスが全然動かなくて、ずっとスマホを見ていたけれど、ふっと外を見た。
その時見てしまった。
歩道の真ん中で抱き合ってるカップル。
男の方の顔は見えなかったけれど、着物姿だった。女の方は……月島美雪だった。
やがて、ふたりは駅の方に向かって並んで歩いて行ったけれど、月島美雪の長い髪がふわふわ揺れているのをバスの窓から見続けた。
あんな目立つとこで彼氏といちゃいちゃとかありえないと思った。
その後、お母さんと百貨店に出かけた時、もう一度、月島美雪と男が一緒にいるのを見た。
着物姿だったから、きっと同じ男。親しそうに話していた。
まだ付き合ってたんだ。
大学に入ったら、もう会うこともないと思っていた月島美雪が、同じ学部で同じ学科にいた。
向こうは中学の時のテニス大会で、初戦でボロ勝ちした相手のことなんか、当然覚えてなかった。
色が白くて、髪が長くて、大人びた感じの彼女を、同じ学科の男子が噂するのを何回か聞いたけれど、彼女には大人の彼氏がいるのに、って心の中で思っていた。
でも、わたしには関係ない。
そう思っていたのに……
2年の変な時期に編入してきた風早司に言われた。
「澤田、月島美雪にちょっかい出してるよ」
まさか、ショッピングモールで見かけただけでってことはないよね? いつ知り会ったの? どこで話したの?
2年になるまでどこにも接点なんてなかったはずなのに……
瞬が月島美雪を気にしているのがわかってしまう。
ずっと見てきたから。
風早だって、なんでだか月島美雪といつも一緒にいる。
ずるいよ。
自分、もういるじゃん。
瞬をとらないで。
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