第15話 澤田 瞬---side10

大島は、風早と月島は付き合ってないと言ってたけれど、隠してるのかもしれない。聞いた後から付き合い始めたのかもしれない。

ぐだぐだと考えても仕方がない。こういうのは性に合わない。

気になってるんだったら本人に聞けばいいだけだ。



大学内を、風早を探して歩き回った。

理系の校舎の方に行かれていたらさすがに探しようがない。1階まで下りた所であきらめかけていたら、廊下の開けられた窓のところで中庭を見ている風早を見つけた。



何見てるんだろう?

風早の見ている方を向くと、体にピッタリとしたユニフォームを着たバトン部が何かやっていた。

ムッときた。

月島と一緒にいたくせに、他の女をずっと見てるとかないだろ?

月島はこんなやつがいいのかよ?


近づいていって声をかけた。


「おい」


その声に風早がこっちを向いた。

こいつ、男のオレが見てもきれいな顔をしているって思う。だからなのか、黙っていると凄みがある。

あちこちで女子が噂するのもわかる気がする。


「風早って、月島と付き合ってる?」

「何お前、その直球な質問。びっくりする」


意外なことに、風早は笑った。


「遠回しの聞き方って知らないし」

「伊藤紗香は?」

「何でここで紗香がでてくる?」

「ふうん……澤田さぁ、思いっきり間違えてる」

「は?」

「まぁ、どっちでも同じことだけどさ」

「言ってる意味わかんないんだけど?」

「お前のこと、嫌いじゃないかも」

「ますますわかんないんだけど?」

「あれ」


そう言われてようやく気が付いた。

風早が見ていたのはバトン部の女子じゃない。


風早の視線の先には浴衣姿の月島がいた。

その隣には、着物姿の男。


あんなやついたっけ?

でも着物を着てるってことは、国文学科の誰かってことだよな?

今年の学祭で着物を着て模擬店をしているのは、知ってる限り国文学科しかない。


隣にいる風早の方を見たけれど、無言のままだった。

それで、もう一度、月島の方に視線を戻した。


集まった大勢の人の間で、月島と男は中庭で行われているバトン部の演技を並んで見ていた。

特に何か話してるようにも見えなかった。

ただ並んで見ているだけのようだった。


音楽が終わって、バトン部がお辞儀をすると、周りにいた人に続いて、ふたりのすぐ後ろに立っていた見物客もいなくなった。

それで、その場には、月島とその男だけになった。



ふたりの、手がふれているのが見えた。


正確には、男の指先が月島の手にふれている。


ただ、それだけ。


手をつないでいるわけじゃない。


それなのに、その方がなぜか……



「オレじゃない」


前を向いたまま風早が言った。

一瞬何のことかわからなかったけれど、次の言葉でそれがさっきの答えだとわかった。


「付き合うとしたら、あっち」


「知り合い?」


「兄貴」


思わず風早の方を向いた。


風早は、それ以上何も言わず、ふたりをずっと見ているだけだった。

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