第14話 澤田 瞬---side9

「おせーよ」


グラウンドに行くのが遅くなって、オレの担当時間を少し過ぎてしまっていた。


「悪い」

「いーけど、ほら、エプロン」

「これ、やんなきゃダメなやつ?」

「実行委員からうるさく言われてるから、しょうがないじゃん」


エプロンと一緒にマスクと手袋も渡された。

部の誰かが持ってきたでっかいバーベキューコンロでひたすらフランクフルトを焼いた。焼けたものを別のやつが持っていったら、またクーラーボックスから新しいフランクフルトを出して、コンロに並べて焼くという単調な作業。



さっきの、風早の態度は、アレだよな……



高2の時、後輩に告られて短い期間だったけれど付き合った。

文化祭の時だった。

彼女と待ち合わせをしている場所に、少し遅れて行ったら、彼女の同級生の男がいて、何か話をしているところに出くわした。どうやら彼女を誘っているようだった。オレがそいつを睨んだら、察して去って行ったけど、その少し後、彼女にはフラれた。

後から、あの文化祭の時の男と付き合い始めたのを知った。

あの頃は、サッカーのことしか頭になかったから、少し落ち込んだけど、すぐに立ち直った。


紗香にも知られずに済んだ。

あいつに知られたら、またごちゃごちゃうるさく言ってくると思ったから助かった。

紗香は、『誰が誰を好き』とかそう言う話になるとうざい。



風早は、変な時期というのもあったけれど、編入してきたのがイケメンだというので、教育学部の女子の中でも話題になった。

そして、あの『お姫様抱っこ』で更に有名になった。



オレは、あいつが告られているところに遭遇したことがある。

授業が終わった後の教室で、うつ伏せになっていたから、寝ていると思われたのか、その子は風早に告白していた。

起きるに起きれず、そのまま聞くはめになった。



「風早くん……わたし……風早くんのこと、いいなって思ってて……もし良かったら……」

「断る」

「え?」

「話、それだけだったら、もういい?」

「あの……」

「もし誰かから番号聞いて連絡してこられても、絶対に返事はしないし、どこかに行くとかそういうも、2人きりじゃないとしてもありえないから」


その言葉に、女の子が教室を出て行く足音がした。


「おい」


次に頭の上で声がした。

顔を上げると、風早が目の前に立っていた。


「いつから聞いてた?」

「え? 何のことか……」

「まぁいいや。誰にも言うなよ」


こっぴどい振り方をしたことを言いふらされて、イメージが悪くなるのが嫌なんだと思った。

でも違っていた。


「さっきの子が、オレが酷いやつだって人に言うのはいいんだけど、第3者が言うのは違うだろ?」

「言わないよ」

「教育の澤田か」

「話したことあったっけ?」

「この大学のやつはほとんど覚えてるから」

「嘘だろ? 何人いると思ってるんだよ?」


オレの質問には答えずに、風早は教室を出て行った。





「おい、もういいよ」

「あ?」

「焼くの交代」

「ああ」


オレがエプロンを渡すと、そいつもオレと同じことを言った。


「これ、やんなきゃダメなやつ?」

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