第13話 澤田 瞬---side8

学祭は、教育学部全体でSDGsについてのパネルを展示していた。

来場者は圧倒的に遊びに来ているやつらが多いせいか、ここには入ってもすぐに出て行くやつらばかりで、暇だった。

たまに、この大学に受験を考えているという高校生や、その保護者が真剣にパネルを見ていたけれど、何か質問をされるわけでもなく、一通り見るとすぐに教室を出て行った。

そんな感じで自分の担当時間が終わって、次のやつと交代すると今度はグラウンドに向かった。サッカー部はグラウンドで模擬店をやっていて、フランクフルトを焼いている。もうすぐオレの担当時間だった。


急いで渡り廊下を隣の校舎に向かっていると、思いがけず、月島とばったり出くわした。


国文学科は模擬店で着物カフェをやっているから、女子は全員浴衣を着ていた。朝、浴衣姿の紗香にも会ったけれど、その時は「ふーん」って思っただけだった。


けど……


月島は違う。

それが何かは上手く説明できないけれど……


「似合ってる」


本人を前にして月並みな言葉を口にした。


「ありがとう。嬉しい」


それって、褒められて嬉しい?

オレに言われたことが嬉しい?


前者だよな……


「澤田くんのとこはパネル展示だっけ?」


前に風早の母親と一緒にいた理由を聞くチャンスだった。


「そっ。でもほとんど人が来ないから、こっちからしてみたら楽」


いきなり聞いたら変に思うだろうか?


「足、もういいみたいだね?」

「すっかり。前に、月島が言ってたみたいに、時々またやるんじゃないかって思うこともあるんだけど」


月島が少し不安そうな表情を見せた。


「考えても仕方がないし、その時はその時って思ってやってる。だから、見ててよ、すぐにレギュラー奪還するし」


『見ててよ』とかいう言い方、なんかまずかっただろうか?


「そっちは着物ってだけで大変そう」


「浴衣はそうでもないんだけど、人が絶えないから忙しくて大変だった。でもさっきわたしの担当は終わったから、今日はもう自由」


自由……


「もし誰かとまわる約束とかないなら……」


「ないなら何?」


その声に振り向くと、浴衣姿の風早が立っていた。

国文学科の女子は全員来ている浴衣を、男子は着ていたり着ていなかったりだったけれど、風早は着ていた。


「行くよ」


そう言うと、風早はオレに背を向けて、先に歩いて行った。


「じゃあね」


月島もそう言うと、風早の後を追って行った。


見ていると、先に行ったものの、すぐ近くで風早は月島が来るのを待っていた。そして、月島が追いつくと、ふたりは一緒に歩いて行った。

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