第11話 澤田 瞬---side6

「おい、大島これなんなんだよ?」

「悪い……」


4人で飲みに行けると期待していたら、なぜか文学部と教育学部の数人が集まって、20人くらいで居酒屋の個室を貸し切っている。


「瞬と飲みに行くの久しぶりだよね?」


左隣は大島だったけれど、右隣には紗香が座っている。

周りに変な気をまわされて隣にされた。


月島も来ているけれど、話ができる距離じゃない。


「そういやぁ、この店選んだの月島さんだってさ。澤田が掘り炬燵になってる方が座りやすいんじゃないかって」


大島が紗香に聞こえないように囁いた。


サッカーの試合中に足首の靱帯を一部損傷して、ずっとギブスをしていた。それが外れて今はサポーターになっているから普通のスニーカーも履けるようになっていた。ただ座敷とかだと座りにくい。

月島はオレの怪我のこと覚えてたんだ。


「瞬、なんか嬉しそう」


やば……無意識に顔が笑ってた。


「あー、久々に大勢で飲むのも楽しいもんだと思って。ずっと部活行けてないし、まっすぐ家に帰るだけだったから」

「そっかぁ。じゃあ、いっぱい飲んでね」


横で紗香が話しているのを適当に相槌を打ちながら、月島が座っている方を見ていたら、スマホを見ながら席を立って、どこかに向かって行くのが見えた。

それで、オレも席を立った。


「どこ行くの?」

「え? トイレ」

「あ、ごめん」



トイレがある場所は客席から少し離れたところにあって、周りがうるさくないから電話をかけるのにちょうどいい。

思った通り、月島が誰かと電話をしていた。

少し離れたところから見ていると、電話で話しながら、月島の表情はくるくると変わる。話している相手は誰なんだろう?


席を立つ時に、風早が女の子に囲まれて捕まっているのが見えた。

だから少なくとも電話の相手は風早じゃない。

そもそも同じところで飲んでるんだから、わざわざ電話をする必要もないか。


月島が電話を切ったタイミングで、話しかけた。


「飲んでる?」

「あんまりお酒は得意じゃないから。今日って、澤田くんが集まろうって言ったんでしょ?」

「まぁ」

「学部違う人との集まりって初めてだから、いろんな話聞けて楽しい」


本当はこんな予定じゃなかったんだけど……


「月島は大学ない日何してるの?」

「バイトと、司くんのところでお手伝い。って言っても雑用しかできないけど」

「司って……仲良いの? 風早と」


付き合ってはいなけれど、月島は早島が好き……とか?


「もう戻るね」


「待っーー」


その時、右足に力が入らないことをうっかり忘れていて、普通に右足に重心をかけてしまい痛みでぐらついた。


よろけたオレを、月島が咄嗟に、支えてくれた。


これ、逆のやつじゃん……


「大丈夫? 治りかけでしょ? 気をつけて」


「ごめん……」


オレ、めちゃくちゃかっこ悪い……


「どうして謝るの? 変なの」


月島が笑った。

かっこ悪い、けどこれってチャンスだよな?


「あ」


「何?」


振り向くと、紗香が立っていた。


「トイレ行くって言ったきり戻らないから、気分でも悪くなったのかもって心配してたのに。何やってるの?」


「無意識に右足ついて転けそうになったの助けてもらった」


「大丈夫なの?」


「だから月島のおかげで転けなかったんだって」


オレが紗香と話している間に、月島はいなくなっていた。

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