第9話 伊藤 紗香---side4

朝の教室はちょっとした自由時間で、友達と話をしている子や、授業の準備をしたり、慌ててレポートをやっている子もいる。

今、わたしの斜め前の方に座っている月島さんは、隣に座っている風早と何か話ながら一緒にノートPCを見ている。

最近、というか考えてみたら風早は編入してきてから、月島さんと、月島さんの友達の藤原さんと、3人で一緒にいることが多い。藤原さんの彼氏は瞬と同じ教育学部の人だから、風早が一緒にいる理由があるとしたら、それは月島さんということになる。


彼女は、振り向いたりしないと思うんだけどな。



「伊藤さん? 伊藤さん!」


風早が後ろを向いていて、わたしに出席を書く小さな紙の束をひらひらさせていた。いつの間にわたしの前の席に移動したんだろう?


「ごめん、ちょっとぼんやりしてて」


風早が黙ってわたしの顔をじっと見てきた。

いや、そのきれいな顔で見られるのはちょっと……


「伊藤さんさぁ、ちょっと前の土曜日、教育の澤田と映画行った?」

「えっ? うん」

「ふたり、付き合ってるの?」

「それは……」

「違うの?」

「そんなの風早に言う理由ある?」

「ある」


えっ? えっ? それって……風早って、わたしのこと?


「ないから」

「え?」

「オレ、伊藤さんにはこれっぽっちも興味ないから」

「あ、はい」

「で、どっちなの? 付き合ってるの? 付き合ってないの?」

「……まだそこまでは」

「だったら頑張らないと、澤田、月島美雪にちょっかい出してるよ」

「え?」


それだけ言うと、風早は前を向いてしまった。



ちょっかいって……瞬が?

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