愛沢深愛は、もう人間じゃない――化け物だ

俺は急いで教室に戻った。


「ギリギリだったけど、どした?」


俺が席に座ると後ろから掠めた声が聞こえた。


「い、いや、保健室の先生との話が長引いただけ」

「そうか」


そのまま、頭の整理が追いつかないまま、先生の話が始まった。


「よし、全員揃ってるな〜。最近事件が多いからな」

「そういえば、ついこの間、◯◯駅で殺人事件ありましたよね」


クラスの一人がそう言った。


「そうだな。殺人というより未遂に終わったが。たしか、学生が襲わられる所を他の学生が助けただったな。しかもその助けた学生はうちの生徒らしい。いやぁ〜喜ばしいことだ」


それって――完全に俺じゃねぇか!?

というか、この学校にいるのバラすなよ!?

俺はチラッっと愛沢さんの方を見た。


「チラッ―――っ!?」


愛沢さんと目が合ってしまった。

彼女は微笑んでこちらに返してきた。

もうバレてないか?

いや、よく考えたら、愛沢さんは多分、ヤンデレのような感じではないと思う。

見た目通り優しいはずだ。

バレた所で、礼を言われるだけだ。

まぁ?一応?今日は教室にずっと居よう。

教室なら無闇に探りをいれないはず。

そして帰るときは走って帰ろう。うん。そうしよう。


キーンコーンカーンコーン。

最後の授業の終わりの合図が聞こえた。


「よし、各々帰るように。長くは教室に残るなよ〜」


先生はそのまま、教室から出ていった。

俺はというと、先生が教室から出た瞬間に

急いで俺も教室から出た。

下駄箱には誰も居なかった。

そうして俺は上履きと靴を入れ替え、門へと向かった。

学校から出たら走ろうなどと思っていると、


「ね?大葉くん?なんで急いでるのですか?」


後ろから声が聞こえた。

この声は忘れるわけがない。

少しダウナーで、綺麗な透き通っている声なのに、その裏には闇があるような。

そしてこの声のトーン、今日の朝と同じだ。

恐る恐る振り返ると、そこに愛沢さんが居た。


「ええと…愛沢さん?愛沢さんこそ早いですね……お友達は?」


おかしい。

俺が教室を出るときは、極力陰を薄くしてたのに。

なんで気づけたんだ?

面識が少ない俺を。

とにかく話を逸らせないと。


「話を逸らせないでください。それとも言えない理由ですか?」

「いえ、そうではなく……ただ、愛沢さんとの間柄的に………」

「……あ、そうでしたね。私と大葉くんはあまり面識が無かったですね」

「アハハ……」

「では、大葉くん連絡先交換しませんか?」


れ、連絡先!? ど、どうしよう。あまり、こういう学内で人気の人間とは関わると大変な事になるから、できれば拒否したいが、流れ的に断りづらい。

腹を括るか。


「は、はい! いいですよ」


俺は愛沢さんと連絡先を交換した。


「ではこれで、俺はもう帰りますね」


そう言い、そそくさと帰ろうと門に視線を合わせようとしたとき、


「…この際ですから、なんでそんな急いでるのか聞きませんが、朝の件、今答えてくれませんか」

「え」

「もしかして、それも答えられないとか、ありませんよね?」


その瞬間。悪寒が走った。

彼女の長いピンク髪が風によって靡いてるのが嫌でも目にはいった。

そして、彼女のルビーのような、本来は綺麗な瞳が、別の何かに染まっているように感じた。

とにかく俺が知っている愛沢深愛ではなかった。


「あ、朝の件ですよね? た、たしか、探している人が居るとか」

「そうです。その探している人が――――」


俺は唾を飲み込んだ。

彼女は言葉を続けて、


「―――あなた。ではありませんか? もし、あなたであれば、何故私を避けたのか、何故私から逃げているのか、何故助けた時、走って行ったのか、何故私がお礼をしたいと警察方に伝えたのに、それを拒否したのか、何故私があなたを探しているとアピールしているのに、なにも言ってこないのか、何故嘘をついたのか、何故私から離れようとするのか、私はこんなにも好きなのに――何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故」


彼女は下を向きながら、だから――と言葉を紡ぎ、


「最後に聞きます。私の運命の人はあなたですよね?」


そして、顔を上げそう言った。

彼女の瞳は、もう人間がしていいものではなかった。

まるで―――化け物。

狙った獲物を逃さないような。

俺の思考はフリーズしたように固まったが、

沈黙は肯定になってしまう、と脳内に響いた。

俺は逃げるために、止まっていた思考を、もう一度働かせた。


「っっ!? あ、朝も言った通りの俺ではありません! というか、朝に言っていた特徴とやらに、当てはまっていないものが沢山あります! 例えば、俺の身長は169cmです! それ以外も違います! 俺は、あなたの言っている運命の人ではありません!」


必死に自分に弁護した。

そして、僕の説得が伝わったのか、さっきまでの雰囲気が和らいだ。


「そうですね。すみません、勝手に押し付けてしまって」

「あ、いえ……わかってもらえたなら嬉しいです」


俺は安堵をした。

そして、彼女から、


「最後に、一つお願いがあるのですが、いいですか?」

「さっき、強く言ってしまったので、そのお詫びに、できる範囲ならいいですよ」


こんな俺にお願いとは、なんだろう?

そう思っていると、


「大葉くん。私の相談役になってもらえませんか―――――――――――――」

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