バレてはいけない。

その男をじっと見ていると、その男は懐から、ギラついた鉄のような物を取り出した―――――――


(あれって刃物か!?)


男は刃物を両手で握りしめているところを

他の人が目撃したのか、周りの人が叫びだした。


「キャーー!!」

「っ!?」


男はそれに気づいたのか、両手で刃物を持ち

走り出した。

その男の視界にある女の人を収めていた。


(っ!?まずい!あの女の人を刺そうとしている!?助けた方が良いのか?警察が来るまで待つか!?いや、それだとあの人が…)


俺はパニックになっていた。

周りも俺と同じようにパニックになっていた。

みんなは一度でも不審者に立ち向かう妄想などした事があるだろう。

凄い力でその不審者を倒し俺かっけぇみたいなことなどを。

だが現実はそう甘くない。

そんな凄い力があるわけでもないし、ましてやそんな勇気もでない。

ただ、その場で足が竦むだけ。

だけど、俺はそれを振り切り、刃物を持っている男よりも全力疾走で女の人の所まで行き、その人を押した。


「危ないっ!」

「えっ」


トンっ、と押し、その女の人は転んだが、刃物を持った男も足が引っ掛かったのか、姿勢を崩し、刃物が遠くへと投げ捨てられた。

それを見た周りの人が、その男を抑え込んだ。


俺はというと、刺されそうになっていた女の人を押した事で自分もその場で転んでいた。

安否を確認するために、その女の人の方を見ると―――――俺は急いで、さっきの全力疾走とは比べ物にならないぐらいの速さで、その場から離れた。


「はぁ、はぁ、はぁ。あ、危なかったぁ」


何故俺は、その場から急いで離れたのか。

それは、その女の人が、あの転校生――――愛沢深愛だったからだ。

見間違いではない。

あの桃のような色鮮やかなピンク髪。

そしてストレートに伸びている長い髪。

間違いなく愛沢深愛だった。

だけど、もっと重要な事は、愛沢深愛の雰囲気が明らかに違った―――ような気がした。

言葉で説明するのが難しいが、とにかく近寄ってはいけない気がした。


取り敢えず俺は、帰る事にした。

ラノベが買いに行けなかったのは辛いが、また行けばいい。

あ、そういえば、愛沢深愛に押したこと謝ってなかったな。

ま、いいか。急いで離れたし、誰が押したか、分からないだろ。


そして次の日。

家に警察が来た。

親がびくっりして、俺がなにかしたのかと、問いただされたが、すぐに誤解は解け、昨日の事で、取り調べて的なことをされた。

取り調べの中、ある言葉を投げかけられた。


「そういえば、君が助けた、あの女の子は、お礼がしたいらしいのだけど―――」

「あ、いえ、結構です。と伝えておいてください」

「え、でも―――――」

「いえ、け・っ・こ・う、です」

「わ、分かりました。そう伝えておきますね」

「はい、そうしてください」


俺は警察相手に圧を掛けた。

お礼とか、嫌な予感しかしないからね。

そうして、取り調べても終わり、日も暮れていた。


(はぁ、取り調べだけで疲れた。結局、今日はラノベ買いに行けなかったな。来週の休みに行くか)


俺は昨日の疲労も合わせて、寝るのだった。


そして時間が過ぎ、日付けが変わった。

俺はいつも通り、学校に向かっている。


「なぁ大智。知ってるか?」

「なにが?」


いつも通り、友人が話しかけてきた。


「あの転校生、愛沢さん。ある人を探しているらしいぜ?」

「へぇ~そうなんだ。それで?」

「愛沢さん曰く、運命の人とか嘆いているらしい」

「ほうほう、それで?」

「そして、その人の特徴が、イケメンで、背は172cmぐらいで、中肉中背、髪は黒で、比較的に小顔、目の下にはほくろが付いてて…」

「へぇ~そうな――――は?」

「そういえば、お前になんか似ているな。ま、イケメン以外だけどな。ははっ!」


こいつは後でぶん殴るとして……

まさかね、愛沢深愛が探しているのは俺じゃないよね。

これが自意識過剰なだけならいいんだけど。


そうして学校に着いた。


「あれ、お前何処に行くんだ?」

「あー、ちょっと保健室に用があってな。先行ってくれ」

「分かった〜」


俺は、急いで、保健室に行った。

何故保健室か、それは、


「あった、小さい絆創膏」


そう小さい絆創膏を貼るためだ。

俺はその小さい絆創膏を目の下に付けた。

目立つかもしれないと思ったが、小さいためかあまり、目立たなかった。

そうして、急いで保健室から出て、教室に向かおうとしたとき、


「そこで、なにをしているのですか?」

「あ―――」


俺の視界の先に、ある女の子が映った。

愛沢深愛だ。

なんでここに―――


「貴方は……大葉くん?」

「よく知っていますね。そちらこそ愛沢さんですよね。保健室には何用で」

「そうですね……なぜか、保健室に行ったほうが良い気がしまして」


怖。なにそれ。

取り敢えず、今すぐにも離れないと。

嫌な予感がする。


「そ、そうなんですね。俺は保健室の用が済んだので、先に失礼しますね」


そうして、この場を去ろうとした時、


「待ってください」

「ど、どうかしましたか?」

「いえ、一つ聞きたいことが有るのですが」

「は、はい。いいですよ」

「ありがとうございます。それで聞きたいことはですね、ある人を探していてですね。特徴が、身長が172cm、中肉中背、黒髪、髪の量は多くも少なくもない。そして比較的小顔で、雰囲気は少し気怠げ。そうですね、丁度貴方みたいな感じです。その方を知っていますか?」


知ってるも何も、その特徴全部当てはまるんだが。


「知らないですね……」


否定をすると、愛沢深愛は俺に近づいてきた。

俺は、ルビーのような紅い瞳に囚われていた。


「本当に知らないのですね?嘘、ついていませんよね?」

「は、はい。ついていませんよ」

「……そういえば、貴方の目の下なにか、付いて――――――」


その直後、チャイムの音が鳴った。


「あ、チャイムが鳴ったので、教室に戻りますね!」


俺は、またしても、その場から急いで離れた。

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