西川口のゴブリン退治 6

一瞬遅れて、ゴブリンの胴体から勢いよく血が噴き出した。

ゴブリンの血って、緑色なんだな。


考えてみれば、実際に魔物を見るのは初めてだ。

俺は、床に転がったゴブリンの頭を足先で、突っつく。

普通に硬かった。斬った時の手応えのように、豆腐並みに柔らかいかと思ったのに。

やはり、魔力を流し込んだこの短剣、凄い。


程なくして、ゴブリンの死体は塵になり、後には魔石が残った。


余韻に浸っている間、もう一匹のゴブリンが鉄パイプを振り上げて、打ちかかってくる。


俺は、そちらの方を全く見ていなかったが、強化された聴覚や嗅覚、触覚で、奴の位置は行動を完全に把握できていた。

皮膚に当たる風が強くなったな。

奴の体臭が臭くなったな。

うん、今だ。

顔を上げると、ちょうどゴブリンが俺の頭に鉄パイプを振り下ろすところだった。

その動きは、とても緩慢に思えた。

鉄パイプが振り下ろされるよりも先に、俺の短剣が、ゴブリンの両腕を切断する。

ゴブリンが自分の両腕が切り落とされたと気が付く前に、ついでに両足も斬ってしまう。


何が何だか理解できていない様子で、両手両足を失ったゴブリンは、床に崩れ落ちた。

まだ死んでない。これで、ゴブリンを一匹、生け捕りにできたかな。


それにしても、凄いな、ポーションの効果。


田中さんは、俺の奮闘ぶりをウンウンと頷いて眺めていた。


「どうやら、手助けする必要は無いな。最初にしては、上出来だ」


そう言うと、床に横たわる虫の息のゴブリンに布を巻き始めた。止血しているのだろう。


「田中さん、それ大丈夫ですかね?もう死ぬんじゃ?」


死んだところで魔石に変わるだけなので、大した問題でも無いのだが。


「まあ、見てな。物は試しだ」


田中さんは、ポーションを取り出すと、少しだけゴブリンに飲ませた。

その手があったか。


すると、ゴブリンの魔力...生命力かな?

生命力の回復が、感じられた。


田中さんはゴブリンの口をグルグル巻きに縛って猿轡にすると、クーラーボックスに放り込んだ。

あ、クーラーボックスには、まだ弁当が入っているのに...。

田中さんは、そういう事を気にしない人らしい。


「もう一匹いたよな。逃げた奴」


「ええ、そうですね。階段を通って、上のフロアに行ったようです。1階には、もう居ないようですね」


ポーションで劇的に向上した、俺の聴力はゴブリンの息遣いや心拍などを捉えている。

この階からは俺と田中さんの発する音しか聞こえないが、上の階に、まだまだ居るな。よく聞こえる。


...ん?待てよ、この音は?

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