西川口のゴブリン退治 4
着いた。西川口だ。
西川口駅は、当然ながら秩父とは大違い。人通りも多い、繁華街と呼んで良いだろう。
秩父山中には、熊とオークが出たが、廃ビルとはいえ、こんな街中にゴブリンなんて物が出現するのだろうか。
ゴブリンは夜行性なので、外が明るいうちにクエストを終了させる。朝早くから現地に赴いたのは、そのためだ。
昼間であれば、ゴブリンは暗い廃ビルの中でしか動き回らない。しかし、夜は外に逃がしてしまうかもしれないから、できればそれまでに駆除を完了させるのが理想だ。
だが、多勢に無勢であれば、引き返す。今回は、駆除よりも内部調査がメインの仕事なのだから。
スマホで現場の位置を確認しながら、移動する。
途中で通った裏通りで、ガラの悪い奴らの一人と、目が合った。
奴は、俺の顔を見るとニヤリと笑った。あ、絡んでくるつもりだな。
そして、こちらに向かって半歩踏み出し...そうになったが、急に足を引っ込めた。足の着地点をいきなり変えたので、姿勢が不自然な半身になっていた。
田中さんの姿が視界に入ったからだろう。
無精ひげを生やしたプロレスラーみたいな体格のオヤジが、上半身裸で肩だけガードしたような防具を付けて、おかしな兜を被りグラディエーターもどきのコスプレをしている。
背中に巨大な剣を背負い、なぜか普通のクーラーボックスを肩にかけている。
いくらガラの悪い奴らでも、絡みたくない。いや、関わり合いになりたくないだろう。
下手なヤクザよりも
いずれにしても、奴は、ここ数秒の出来事を「無かったこと」にすると決めたらしい。
田中さんが目の前を通り過ぎても、目を合わせず、敢えて背中を向けている。
うん、田中さんと一緒だと頼もしい。
なるほど、この格好はハッタリを利かせる効果もあるか。
でもこれは、プロレスラーみたいな体格の田中さんがやってるからこそなのだろう。
俺が真似しても意味無いだろうな かえって、コスプレ姿の虚弱なオタクと見られるのが関の山か。
「どうやら、ここだな」
クエストの現場である廃ビルは、かつて違法風俗ばかりが入っていたようなビルだった。今にも崩れそうだ。入口に、立ち入り禁止と書かれたテープが張ってある。
「さて、入るか。トイレ、大丈夫か?」
「さっき、駅のトイレで済ませてきましたから...」
秩父の時は、散々な目に逢ったからなあ。
今度は、失禁も脱糞もしないように、膀胱と腸をカラにするよう心掛けているのだ。
俺は上着を脱いで、Tシャツの上から防具を着けた。航空公園駅のコンビニ、つまりギルド御用達の武器屋で購入した物だ。
田中さんのように、素肌に直接着用する気には、なれない。兜は予算不足で、まだ買えない。
そして、短剣を腰に差し、準備完了。
クエスト開始だ。
俺たちは、廃ビルの中へと入って行った。
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