最初のクエスト 1
早朝、俺は、秩父へ向かう電車の中で、ぐったりしていた。
車内は、さほど混んでいない。座ることができたのは、ラッキーだった。
平日の朝に都心と反対側へ向かう西武秩父線は、空いているものなのかもしれないが。
うー、それにしても、昨日は、田中さんと飲みすぎたかな。
俺は、あまり飲み会に慣れてない。コロナでほとんど大学に行けなかったから、飲む機会がなかったのだ。人付き合いも苦手だったしな。
田中さんは、かなり飲む人だった。
さすがは冒険者と云うか、あの体格と衣装で大ジョッキをグビグビ煽る様は、絵になる。
そして、アルコールで饒舌になった田中さんからは、冒険者ライフの基礎的な事をみっちりと聞かされた。
例えば、冒険者は普通の生命保険に入れないとか、仮に入れても掛け金が物凄く高くなるから、あんまり意味ないとか、ローンは組める事もあるけど、めっちゃ条件悪いとか。
冒険者の仕事は基本、危険の付きまとう便利屋だとか。不足する警察や自衛官の穴埋めも、今は冒険者ギルドに外注される時代だとか、それも本当に危険な任務だけが依頼されるとか。田中さんのように、定年を機に冒険者登録する人も、けっこう居るとか。
参考になるなあ。
田中さんは、恐らく会社で若い者を指導してきた人だろう。コスプレじみた格好で歩き回っているのはともかく、かなり社会常識を身に着けているように感じられた。
俺は、そういう会社員経験のないまま、冒険者になってしまったのだ。果たして、これで良かったのだろうか...。
会計の際、田中さんは領収書を受け取り、西所沢のマンションまで歩いて帰って行った。
節約なのかな。冒険者は、それほど儲かる仕事でもないのかな。
西所沢へは駅と反対方向なので、田中さんと店の前で別れた。
俺は、駅へ歩いて行く道すがら、実家の両親に電話をかけた。
冒険者になった事を報告したところ、父は怒り狂っていた。母は、泣いていた。
西部秩父駅まで、もうすぐか。そこからバスに乗り換えて、現場まで行くのだ。
とにかく、これから最初のクエストに取り組むのだ。無事に終わらせたい。
まあ、クエスト内容は単なる農作業なのだから、無事に終わるのが当然だな。
しかし、この仕事の報酬は安い。交通費を引いたら、最低時給と変わらない計算になってしまう。
そういえば、農業は最低時給以下で雇用しても法的に問題ないんじゃなかったかな。記憶違いかな。
記憶違い...。そう言えば、ひと晩経ってから考えると、色んな違和感があるというか、どうもしっくり来ないんだよな。
冒険者ギルドなんて、何年も前から在ったはずなのに、社会にそれほど浸透していないように見える。
便利屋的な職業のはずが、仕事を依頼したという話は、周りの人から聞いた覚えは無い。
それに、あのポーション。それほど便利なものが存在するなら、医学はもっと発展していても良いのではないか。
なんか...俺の知っている現実世界とはズレてるような...。あれ...なんか眠いぞ....何故だ....。
いつの間にか、眠ってしまったようだ。昨日の酒が、まだ残っていたかな。
もう着いたな。西武秩父駅。あれ?うたた寝する直前、何かについて考えていたような?
だめだ、思い出せん。
まあ、いいか。大したことじゃないだろう。
秩父か...。
次は、バスに乗り換えだな。バス乗り場に行かなきゃ。
「ちちんぷいぷい、ちちんぷいぷい、秩父に行こう♪」
俺は、歌いながら改札へ向かってホームを歩いた。
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