Dランク冒険者 田中さん 3

「それで山田君さあ、どんな依頼クエストを受けようと思ってるの?」


「まあ...。どんな内容でもクリアすればEランクに昇格するわけですから、安全かつ短時間で終わるような仕事が良いですかね。報酬は安くても良いので」


「そうだね。そうするべきだ。

と言っても、Fランクで受けられるようなのって、基本的にそんなクエストばかりだろうけど。あ、これなんて、どう?」


田中さんが指さした求人票は、秩父の山奥で農作業の依頼クエストだった。一日で終わるらしい。

正直、他人から依頼を決められるようで気に入らないが、他に良さそうな求人も無さそうだ。

まあ、これで良いか。

日にちは、明日か。少々、急だが、出来るだけ早く昇格したいし、受けよう。


田中さんは、別の求人票を見ながら、スマホのアプリを操作している。

「じゃあ、俺は...これと、これかな」


「2件、同時に決めるんですか?」


「ああ、たまたま同じ日に同じ場所で2件の依頼があるんでな。ひとつを午前中に終わらせて、もう一つを午後に完了させれば効率的かと思ってさ」


「別の日じゃなくて、同じ日に2件も?

それは...過密なスケジュールのようですが、長いキャリアの冒険者って、それが普通なんですか?」


「どうかな?それほど時間もかからないような依頼だし。キャリアと言っても、俺も1年くらいしか冒険者やってないよ」


「え!そうなんですか?てっきり熟練者ベテランだと思ってました」


1年だけかよ。そんな気合の入ったRPGみたいな衣装でギルドをうろついたり、新人の俺に先輩風吹かしたりしてるのに。如何にも歴戦の勇者ってオーラ醸し出してるのに。


「会社を定年退職してからだよ、冒険者ギルドに登録したのは。

やってみると、冒険者の仕事は、けっこう楽しいし、性に合ってたと思うよ」


定年退職後って事は、60歳を過ぎているのか。

田中さんは、50代半ばに見えるし、かなり体格も良い。身体能力に恵まれた人なのかもしれない。それにしても、再雇用もされずに再就職したのが、冒険者とは。


「最初は、この業界の事が全然分からなかったけどな、師匠メンターとして色々教えてくれた人が親切だったんで、かなり助けられたよ」


メンター...。そういえば、受付でメンター制度について教えてもらったな。


「その方は、かなりの熟練ベテランだったんですよね?

僕、まだメンターを決めてないので、紹介してもらえませんか」


「う~ん、紹介してやりたいのは、やまやまだけど、無理なんだよな」


「何故ですか?」


「その人、こないだクエストの途中で死んじまったんだよ」


「え...」


やはり、冒険者という職業は、危険と隣り合わせなのだな。

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