#85 友だち
光と仲直りをした翌日、今はちょうど昼休みの時間である。
僕たち四人は食堂の端にあるいつもの定位置に腰を下ろし、会話をしながらごはんを食べているところだ。
先週に三年生の生活がスタートしてから、僕と愛野さんと南さんの三人に北見くんも加わり、今はこうして四人でテーブルを囲んでいる。
南さんは最初、北見くんとごはんを食べることに「うげぇ~」とわざとらしく嫌そうな顔を浮かべていたが、今はなんだかんだ楽しそうな様子だ。
そして僕は、隣に座っているその北見くんの方に視線を向けた。
先週の月曜日、ちょうど四人でファミレスへと行った帰り道で、北見くんは明日から昼ごはんを一緒に食べても良いかと僕に尋ねてきた。
断る理由もないので、「もちろん良いよ」と僕は返事をしたのだが、どうしてそのことを僕だけに尋ねてきたのかが何故か引っ掛かった。
北見くんは、僕と愛野さんと南さんが三人でごはんを食べていることは知っているはずだ。
それなら、二人がいる時に尋ねてきても良かったのでは?と僕は思ったのだ。
その引っ掛かりをそのまま北見くんに伝えてみると、何故か北見くんは照れくさそうな表情を浮かべ始めた。
「あ~、えっとな、朝に川瀬は『あの二人と一緒にいることを男子によく思われてない』的なことを言ってただろ?だからさ、俺が川瀬と一緒に行動すれば、俺の方にも他のヤツらの視線が向いて、川瀬に向けられる視線がちょっとはマシになるかなぁって思ったんだ。まぁ川瀬と一緒に昼メシが食いたいってのが一番の理由だけど」
「まず川瀬にだけ聞いてみたのは、二人がいる前でこの話はあんましない方が良いかなって思ったからだ。それに、南に聞いたら嫌そうな顔をされそうだしなっ」と更に言葉を続け、そのまま北見くんは笑顔を見せた。
どうやら北見くんは、その日初めて話した僕のことを気に掛けてくれていたようだった。
そんな北見くんの優しさに胸が熱くなると同時に、一緒に昼ごはんを食べたいと言ってくれたことに僕は嬉しくなった。
今の北見くんは南さんの揶揄いに「何だとぉ!?」と声を上げ、すっかり見慣れた言い合いを繰り広げているが、僕はそれを見ているからか、あるいはあの時の北見くんの優しさを思い出したからか、それがどちらかは分からないものの、自然と自分に笑顔が浮かんでいくのを感じた。
***
昼休みが終わった次の時間は体育であり、体操服に着替えた僕たち生徒は体育館に整列をしている。
今日の体育は、二クラスが合同となって行われるバレーボールの授業だ。
もう一つのクラスには元山さんと桐谷さんがおり、さっき二人とは簡単に挨拶を交わしてある。
今は全体での準備体操中だが、さっきの元山さんからのいじりのせいで、何だかもう既に疲れている感が否めない。
それに、僕が二人と話している時、特に強烈な視線が「二方向」から飛んできていたことに僕は気付いていた。
一つは頬を膨らませた愛野さんからの視線であったが、もう一つは未だ分からずじまいである。
いつもの男子たちから向けられる視線とはどこか違うため、少し気になってはいるのだが、実害はないので今は準備体操に集中することにした。
準備体操を終えた後、体育の先生の指示で男女に別れ、バレーのチーム決めが始まった。
審判と休憩のローテーションも考慮し、八人一組のチームが先生によって決められていく。
チームは赤、青、黄、緑、白の五チームあり、僕は先生から赤チームと伝えられ、赤のゼッケンを受け取った。
そして、チームごとに分かれるようにとの合図が出されたので、僕は赤チームの場所へと移動する。
「おっ、一緒のチームだなっ川瀬!」
すると、その場所には北見くんがおり、どうやら僕たちは一緒のチームになったようだ。
「よろしくね、北見くん」
「おうよ!」
新学年が始まってからまだ一週間ほどしか経っていないということもあるが、僕はクラスで北見くんとしか話せる男子がいないため、このチーム分けは僕にとって「当たり」と言えるだろう。
そうしてゼッケンを付けながら北見くんと話していると、
「俺も混ぜてくれ」
と横から誰かに声を掛けられた。
その声がした方向からは、ついさっき感じていたのと全く同じ視線が感じられる。
恐らく、今声を掛けてきた人物が、その視線を向けている正体なのだろう。
僕はほんの少しだけ緊張をしながら、その視線の方へと顔を向けた。
すると、そこには北見くんよりも背の高い男子が立っていた。
その男子の第一印象は、短く切られた爽やかな髪型に、がっちりとした体格、そして寡黙そうな印象を与えるクールな表情だろうか?
そして何故か、その男子の視線はずっと僕の方に向けられている。
彼の眼光は鋭く、僕が何かしちゃったのかな…?と不安になりながらも、ひとまず僕は彼に自己紹介をすることにした。
「えと、話すのは初めてだよね…?僕は川瀬朔だよ」
僕がそう自己紹介をすると、「…川瀬朔」と呟きながら、彼の眼光はより鋭くなっていく。
(何でこんなに怒ってるの!?)
僕が体操服の下で冷や汗を掻いていると、彼も僕に自己紹介をしてくれた。
「俺の名前は井村一輝。よろしく」
彼が自分の名前を言った瞬間、僕はその名前に聞き覚えがあるように感じた。
そして、少し考えてみると、すぐにその心当たりにたどり着くことができた。
「井村くんって、元山さんの彼氏の『井村一輝』くんで合ってる?」
そんな僕の問い掛けに、井村くんは「そうだ」と頷きを返してきた。
「やっぱりそうだったんだ」
井村くんは、やはり元山さんの彼氏だったようだ。
何度も元山さんから井村くんの話は聞いていたものの、実際どんな相手なのかは知らなかったので、ようやく噂の彼氏と対面できたことに、僕は謎の感慨すら覚え始める。
そう言えば、さっき元山さんから「かずきと同じクラスになったんだよねー」ということを聞いたばかりだ。
事前に井村くんが誰なのかを教えてくれなかった元山さんに対し、してやられた感すら覚えていると、
「川瀬とは、ずっと話したいと思ってたんだ」
と井村くんは言い、鋭い眼光を浮かべたまま僕の方に近付いてきた。
その瞬間、僕の頭の中にはかつての元山さんとの会話がよぎり始める。
元山さんは井村くんから告白をされた時、井村くんの話に僕が出てきたと言っていた。
確か、僕が元山さんと話していることに嫉妬し、恋敵のように見ていたという話ではなかっただろうか?
(もしかして、この状況は結構やばいのでは…?)
さっきの授業開始前も、元山さんと話していた時に井村くんからの視線を強く感じていた。
そのことから、井村くんは今もまだ僕のことを恋敵だと誤解している可能性がある。
僕は一歩後ずさるも、井村くんに肩を掴まれてしまい、身動きを取ることができなくなってしまった。
とりあえず、今は早急に井村くんの誤解を解かなければと思い、僕は声を出そうとしたのだが、それよりも先に井村くんがその口を開いた。
次に来る罵詈雑言に備え、僕が自分の体を固くしていると、井村くんの口から出たのは意外な言葉だった。
「いつも律と仲良くしてくれてありがとう。感謝する」
「へっ?」
僕が予想外の展開に目を丸くしている間も、
「律からは川瀬のことをよく聞いているんだ。良かったら俺とも仲良くしてくれると嬉しい」
と井村くんは言葉を続ける。
段々と状況を理解し始めてきた僕は、それを一つずつ井村くんに確認していく。
「井村くんって僕に怒ってたんじゃないの?」
「怒ってなんかいないぞ」
「でも、僕のことをすごい眼光で睨んできてたような…」
「あぁ、それはすまない。目が悪かった時の名残で、コンタクトを付けている今でも癖で目を細めてしまうんだ」
「じゃあ、授業が始まる前に僕と元山さんのことを見てきていたのは…?」
「あれは、いつ川瀬に話し掛けようかタイミングを窺っていただけだ」
井村くん本人の口からどんどん真実が明かされていき、僕の心に安堵感が広がっていく。
どうやら、誤解をしていたのは僕の方だったようだ。
「良かったぁー」
そして、僕はホッと一息つき、落ち着いた心で井村くんに視線を合わせ、もう一度しっかり自分の自己紹介を行うことにした。
「改めて、川瀬朔だよ。僕も元山さんから井村くんのことを聞いて、ずっと話してみたいと思ってたんだ。これからよろしくね」
「よろしく、川瀬」
そうして、僕と井村くんはお互いに握手を交わし合った。
***
「ピーッ」という練習の終わりを告げる合図が鳴り響き、今からは試合の時間が始まろうとしている。
ちなみに、僕たちの最初の相手は青チームのようだ。
「俺が基本的にはトスを上げる。だから、できればレシーブは俺の方に上げてくれると嬉しい」
僕たちは今、チームリーダーの井村くんを中心に、どうローテーションをしていくかの確認をしていた。
各チームにはバレー部に所属している生徒が割り振られており、その人たちは基本スパイク以外の役割に回るよう指示が出されている。
そして、そのバレー部枠が今話している井村くんであり、こうして赤チームのリーダーとして僕たちに作戦を伝えてくれているというわけだ。
「敵味方に関わらず、一点入るごとに横にズレてローテーションをしようと思う。前衛を三回したら、審判をして一回休憩、そして後衛三回の後また前衛というように、右回りで移動していこう。前衛・後衛と分けているが、そこまで細かいルールは求められてはいない。だから、ある程度前や後ろに広がるくらいで、臨機応変にポジションは動いていこう」
井村くんからの作戦に、僕たちは頷きを返す。
そうしてそろそろ試合が始まるということで、僕たちはそれぞれの最初の立ち位置に移動を始めた。
すると、隣にいる井村くんが僕に話し掛けてくる。
「川瀬はバレーの経験はあるのか?」
「ううん、ないよ」
僕のその返事に、井村くんは「そうか」と相変わらずのクールな表情で頷く。
「もし苦手ならトスはあまり上げないようにするが、トスを上げても大丈夫か?」
井村くんは、どうやら僕を気遣ってくれているようだ。
練習時間があったとは言っても、レシーブ練習をする時間くらいしかなかったため、お互いの実力というのはまだまだ未知数な状態だ。
井村くんは僕がバレーをどれだけできるのか把握していないため、事前に確認をしてくれたのだろう。
それに、もしかしたら僕が体育の授業に積極参加をしていない様子を見た元山さんから、僕が運動は苦手なタイプだという情報を聞いているかもしれない。
元山さんは僕のことを運動が苦手なタイプだと思っている節があるので、その可能性は十分にある。
これまでの僕だったら、体育の授業に本気で取り組むことなどなかっただろう。
実際、僕は運動が苦手なフリをすることで、体育の時間を今までやり過ごしてきた。
しかし、僕はありのままの自分でいると決めた。
これからの僕は、自分を偽ることなんてしない。
それに、昨日の光との仲直りにより、僕は中学のあの日を乗り越えることができた。
あの日からスポーツに対しての意欲というものを失っていた僕だが、もうそんなことに囚われるのはやめにしよう。
だから僕は、笑みを浮かべながら井村くんにこう答えた。
「うん。良いトスを期待してるね」
僕のそんな言葉に、井村くんは意外そうな反応を見せたが、
「ふっ、良いトスを期待しておけ」
と頼りになる笑みを見せながら返してくれた。
そして、赤チーム対青チームの試合が始まった。
まずは青チームからのサーブであり、反対のコートから鋭いサーブがこっちのコートに入ってきた。
打ったのは相手チームのバレー部の男子であり、スパイクに制限がある代わりに、サーブで点数を取ろうという感じであろう。
また、今日の体育には隣のコートに愛野さんと桐谷さんの二人がおり、男子たちのやる気は目に見えて高くなっている。
このサーブの威力には、そのことがかなりの影響を与えていそうだ。
しかし、そんな強めのサーブを、後衛にいる北見くんは見事にレシーブしてみせた。
北見くんは運動神経が良さそうだと思っていたが、どうやら僕の予想は当たっていたようである。
そんな北見くんが上げたボールは、前衛の真ん中にいる井村くんの元へとピッタリ届き、
「川瀬、行くぞ」
と言いながら、井村くんは早速僕にトスを上げてきた。
僕はボールを見ながら少し後ろに下がり、助走を付けて勢いよく地面から足を踏み切る。
そして、井村くんがトスで上げたそのボールを、僕は空中でタイミング良く打ち込んだ。
ボールはそのまま相手コートに吸い込まれていき、僕たちのチームに一点が加えられる。
「よしっ!」
久々の全力プレーに確かな充足感を覚え、僕は小さくガッツポーズを浮かべる。
そのままチームの方を見ると、みんなは目を丸くした状態で動かなくなっており、井村くんですらその顔に驚きを浮かばせていた。
コートがいきなり静かになり、「あれ…?」と僕が首を傾げていると、この静寂を切り裂くかのように北見くんが大きく口を開いた。
「いや、川瀬上手過ぎだろっ!?」
北見くんはそう言いながら僕の元へとやってきて、「やばいって!」と興奮した様子を僕に向け始める。
その顔にはワクワクとした笑みが浮かんでおり、僕のプレーに興味津々といった様子だった。
また、井村くんも僕の方へと近付いてきて、
「…本当に川瀬はバレー経験者じゃないのか?」
と、信じられないものを見るかのような顔を向けてくる。
僕がそれに「うん、そうだよ?」と返すと、井村くんはまたしてもその顔を驚きに染めた。
「正直今からでもバレー部に入って欲しいくらいなんだが、どうだ川瀬?」
そうして井村くんは真剣な顔で僕にそう尋ねてきたが、その申し出は丁寧にお断りをさせてもらった。
それに少し申し訳なさを感じていると、井村くんは柔らかい表情を浮かべて僕にこう言ってくる。
「ふっ、冗談だ。でも本当に、それくらいの動きを川瀬はしていた。何なら川瀬の方が俺よりもバレーが上手いだろうな」
その瞬間、光のようなことになってしまわないかと僕は不安になったが、井村くんは「これは俺も負けてられないな」と楽しそうな表情を浮かべていたので、どうやら僕の杞憂だったようだ。
「てか、川瀬の跳躍の高さえぐかったよな井村っ!?」
「あぁ。あんなに綺麗なスパイク姿勢で滞空時間が長い選手なんて、全国レベルでも中々いないだろうな」
そうして二人は僕のプレーを褒め始め、それがどんどん照れくさくなってきた僕は、
「ちょっ、二人とも試合中だからっ!」
と、恥ずかしさを滲ませながら二人の会話に焦ってストップをかけた。
「はははっ!ごめんごめんっ」
「ふっ、すまんな」
それを聞いた二人は笑みを浮かべ、試合の方へと意識を戻し始める。
それにホッとしていると、北見くんが僕にグーを向けながら、
「川瀬、ナイス一点!」
と声を掛けてきた。
それに続くように、
「良いスパイクだった、川瀬」
と言いながら、井村くんもグーを向けてくる。
二人のそんな気持ちが嬉しくて、僕は「ありがとうっ!」と頬を緩ませた。
そして、僕たち三人はグータッチを交わした。
***
僕たちは今、他の四チームの試合を眺めながら休憩をしている。
さっきの青チームとの試合は、僕たち赤チームが勝利を収めた。
今はそのことについて僕と北見くんと井村くんの三人で話しているところだ。
二人は僕のプレーを今も褒めてくれているが、井村くんは流石バレー部と言ったところか、やはりどのプレーにも「巧さ」というものが感じられたし、北見くんもその抜群の運動神経で、何度も豪快なスパイクを決めていた。
褒められることにむず痒さは感じるものの、二人から褒められて「やった!」という気持ちがあるのも事実だった。
そして僕は、そんな二人に対して思っていることがある。
僕は、北見くんと井村くんともっと仲良くなりたい。
昨日、「友情」に向き合うことができるようになった僕なら、二人ともっと仲良くしたいというありのままの気持ちを、二人に伝えることができるはずだ。
だから僕は、思い切って一歩前に踏み出してみることにした。
「北見くんと井村くんが良ければなんだけど、二人のことを名前で呼んでも良いかな?」
いきなりの僕の申し出に、一瞬二人はぽかんとしていたが、すぐに二人は「嬉しそうな」笑みをその顔に浮かべた。
「もちろん良いぜ、朔!」
「ありがとう悠斗!」
北見くん、いや「悠斗」は僕が感謝を伝えると、「おうよ!」と返事をしてくれた。
「朔、これからよろしく」
「うんっ!よろしくね一輝!」
井村くん、いや「一輝」はクールに、けれどもどこか温かさを感じさせる様子でそう返してくれた。
「俺も一輝って呼んでも良いか、井村?」
「ふっ、もちろんだ悠斗」
そのまま二人もお互いを名前呼びすることになり、僕たちの間に確かな「友情」の雰囲気が生まれ始める。
そう言えば、友だちと一緒にいる時間ってこんな感じだったなぁ。
光や他の男子たちと毎日楽しく遊んでいた小中の頃の記憶が頭に次々と浮かび、僕の胸の中には心地良さが広がっていく。
この気持ちは、僕が心のどこかでずっと前から求めていたものだ。
そして、他の四チームの試合が終わり、僕たちは休憩場所から試合コートへと移動を始める。
僕たちの次の対戦相手は黄チームだ。
「よっしゃ、それじゃあ俺ら三人の『友情』記念に、この試合も勝つとしますか!」
悠斗は笑顔を見せながら僕と一輝にそんなことを言ってくる。
その言葉に僕と一輝は口角を上げ、
「うん!」
「あぁ」
と頷きを返した。
そうして僕たちは、さっきのように笑顔でグータッチを交わし合う。
この日、高校に入って初めて僕に「友だち」ができたのだった___。
☆☆☆
私、愛野姫花は、ある一点に視線が釘付けとなっている。
女子コートの方は今、チームごとに分かれての練習中なのだが、私は練習の手を思わず止めてしまっていた。
そんな私の様子を見て、隣にいる朱莉はニヤニヤとした笑みを浮かべている。
すると、同じチームになった律が私たちに声を掛けてきた。
「流石に『あれ』にはびっくりだよね。はじ…川瀬があんなに凄かったなんて」
律が言うように、今、男子コートでは川瀬が「凄いプレー」をしているのだ。
「あっ、元山ちゃんっ。確かに川瀬くんの動きだけ何だかプロの選手みたいだよねっ?」
「うん。南ちゃんの言う通り、明らかに川瀬の動きだけ良い意味でやばいと思う」
「はぇ~やっぱりバレー部の元山ちゃんでもそう思っちゃうくらい凄いんだっ」
私が川瀬に目を奪われていると、朱莉と律が川瀬のことをあれこれ話し始めた。
バレーのことはほとんど分からない私だが、そんな素人の私でも、川瀬のプレーは段違いに上手であるように感じている。
『一輝っ!』
『ナイスレシーブ、悠斗。朔、もう一本行くぞ』
『まかせて!』
そうして川瀬がスパイクを決めた瞬間、体育館中がワッと湧き上がった。
隣にいる朱莉と律もまた、川瀬のプレーに驚きの声を上げている。
ボールを打つ瞬間の川瀬は、まるで背中に翼が生えているかのようだ。
確かにこんな凄いプレーを見せられたら、誰でも自然と川瀬の方を向いてしまうだろう。
実際沢山の女の子たちが川瀬の方を見ており、あの桐谷さんですら川瀬の方に視線を向けている。
しかし、今の私には全くそんなことは気にならなかった。
「かっこいぃ…っ」
だって、今の私の意識は、川瀬にだけ向けられているのだから。
「……姫花もそう思うよねーって、にゃははっ、これは川瀬くんに夢中でボクたちの会話は聞こえてないなぁ~」
「え、ちょっと待って南ちゃん。姫花ちゃんが尊過ぎるんだけど」
「ようこそ元山ちゃん、こちら側へ」
「川瀬は前世で一体どんな徳を積んだのやら…」
私の横では朱莉と律が何やら会話をしているが、私の耳には入ってこない。
私はドキドキと音を鳴らしている自分の胸に両手を重ね、このときめきにじっとその身を委ねる。
そうして私は、大好きな男の子を夢中になって見つめ続けた___。
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