#29 あるもの
驚いた表情を浮かべている愛野さんの元に向かい、僕はひとまず挨拶をすることにした。
「こんばんは。愛野さんも花火大会に来ていたんですね」
「あ、うん。クラスの予定が合う人たちで行こうってなったの」
愛野さんの話によると、クラスの人たちもこの花火大会に来ているようだ。
今のところ出会ってはいないと思うのだが、もしかしたらどこかですれ違っていたのかもしれない。
「なるほど。今はクラスの人たちとは一緒じゃないんですか?」
一人でこの場所にいることが不思議に思ったのでそう尋ねると、一瞬愛野さんは気まずそうな表情を浮かべた。
しかし、すぐに元の表情へと戻り、
「ここで休憩してただけだから気にしないで」
と何でもなさそうに答えた。
そうして少し微妙な空気が流れ始めようとしたところで、
「はじはじ~このスーパー美少女さんはどなたですかぁ~?」
と言いながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべている戌亥さんが近くにやってきた。
「こちらはクラスメイトの愛野さんです、戌亥さん」
「初めまして、愛野姫花です」
戌亥さんは、愛野さんの周りをぐるりと一周し、「近くで見ると尚美少女ですなぁ~」と言いながら愛野さんを観察していた。
そうして、愛野さんの前へと立ち、
「はじめましてぇ~戌亥流歌です~。いきなりですけどぉ~『姫ちゃん』って呼んでも良いですかぁ~?」
と、そう言えばバイトで初めて会った時もこんな感じだったなという距離感で、戌亥さんも自己紹介をしていた。
戌亥さんの突然の行動に若干戸惑った様子を浮かべていた愛野さんだったが、
「もちろん。私も『流歌ちゃん』って呼んでも良い?」
と、笑顔で戌亥さんのあだ名呼びに返事をしていた。
その後は、二人でキャッキャと楽しそうにスマホで連絡先も交換しており、
「姫ちゃんのアイコンしろぴよじゃないですかぁ~姫ちゃんとは心の友になれそうです~」
と、何やら戌亥さんは愛野さんのメッセージアプリのアイコンに興味を持っていた。
そう言えば、愛野さんにしろぴよのぬいぐるみを渡したことがあったなと思い出し、なんだかんだ愛野さんもしろぴよのファンだったんだなと思った。
そんな二人の様子を後ろに下がって眺めていると、後ろから柄本さんがやってきて、
「お、おい、川瀬っち!あんなアイドルみたいな子と知り合いなんて聞いたことなかったぞ!?」
と僕に耳打ちしてきた。
「ただのクラスメイトというだけですよ。あと柄本さんに教える必要もありませんから」
「いや正論!でもよぉ~川瀬っちも隅に置けねぇなぁ?」
中々にウザい顔で「ヒューヒュー」と冷やかしてくる柄本さんを無視していると、
「こら、こーくん。川瀬さんに迷惑かけちゃだめですよ」
と言う深森さんに案の定注意され、「は~い…」といじけながら深森さんのところに戻って行った。
柄本さんに絡まれている間に、愛野さんと戌亥さんの方も会話が終わったようで、
「また連絡します~」
と言いながら戌亥さんが僕の方に戻ってきた。
「姫ちゃんはぁ~これからクラスの人たちと合流するそうですよぉ~」
しかし、「でもでもぉ~」と戌亥さんは声のボリュームを少し下げてこうも言ってきた。
「恐らくそれは嘘だとるかちゃんは思いますよぉ~?」
戌亥さんの言葉を聞いて「やっぱりか」と思った僕は、
「…はぁ、僕はここに残ります」
と戌亥さんに伝えた。
戌亥さんはまたニヤニヤとした笑みを浮かべ、
「次のバイトで詳しく聞かせてくださいねぇ~」
と返してきた。
戌亥さんが邪推しているような関係性ではないのだが…と思いつつ、僕は戌亥さんと一緒に四人の元へと移動し、人ごみに疲れたのでここに残って休憩するという内容を伝えた。
堀越くんは「大丈夫でありますか!?」と本気で心配をしてくれていたが、他のメンバーは何となく事情を察してくれたようで、笑顔を浮かべながら頷いていた。
「それじゃあ後は若い二人にお任せします~」
どう考えても使い方が間違っているようなセリフを戌亥さんは言い残し、僕は五人と別行動を取ることになった。
(これは明後日のアルバイトの休憩時間が面倒臭そうだ…)
そんなことを考えつつ、僕は少し後ろの方にいた愛野さんの元へと向かう。
愛野さんは僕が戻ってくると思わなかったのか、
「あれ?川瀬は流歌ちゃんたちと一緒に行かないの?」
と尋ねてきたので、
「僕も少し休憩しようと思いまして。とりあえず、ベンチに座りませんか?」
と声を掛け、二人で近くにあったベンチへと移動をした。
***
ベンチへと座り、隣にいる愛野さんの方へ視線と体を向ける。
愛野さんは何やらそわそわとしているが、僕はあまり気にしないことにした。
「愛野さん、ちなみに待っているクラスメイトの人たちはいつ頃ここにやってきますか?」
「え、えぇと、その…」
遠回りの聞き方をしても、さっきと同じようにはぐらかされてしまうだけだと僕は感じたため、いきなり本題を尋ねてみることにした。
「多分ですけど、クラスメイトを待っているというのは嘘ですよね?」
「…っ!」
愛野さんは目を見開き、「…やっぱりばれちゃってた?」と降参した様子だった。
「…大した理由じゃないんだけど、聞いてくれる?」
愛野さんが上目遣いでそうお願いをしてきたので、
「ちょうど聞き耳を立てるような人たちとは別行動になりましたし、時間はあります」
と答えると、
「ありがとっ」
と言う愛野さんは笑顔を浮かべていた。
そうして愛野さんは、つい先ほどの出来事をぽつぽつと話し始めた。
「クラスのみんなと…そうは言っても半分より少し多いくらいだけど、さっきまでは出店を見て回りながら遊んでいたの。メンバーは男女半々くらいかな。そしたらね、クラスに田村くんっているじゃん?その田村くんが『二人で話したいことがある』って言ってきたから、グループから離れて、ここまでやってきたの」
田村くんは、クラスで騒がしい方の男子メンバーであり、恐らくサッカー部に所属していたはずだ。
僕はほとんど話したことはないし、いつも愛野さんと話していると視線を向けてくる男子たちの一人でもある(まぁほとんどの男子がこっちを見てくるのだが)ので、どちらかと言えば僕は関わりたくないタイプのクラスメイトだ。
そんな田村くんの話を聞くため、愛野さんはここへと移動してきたらしい。
その理由に予想は付くものの、僕は黙って相槌だけを打つことに専念する。
「それでね、田村くんから告白されたの。クラスメイトだし、グループで遊びに行ったこともあるから嫌い…なんてことはなかったけど、その、『理由』があって断ったの」
何故か愛野さんは僕の方をちらちらと見ながらそう伝えてくるが、愛野さんは僕が茶化してくるとでも思っているのだろうか?
告白をした田村くんのことはもちろん、それを断った愛野さんに何かを言うなんてことはしないので、僕は「そうだったんですね」と口を開いて、話の続きをさり気なく促した。
「告白が終わった後、夏休み前の先輩のように強引に迫られるってことはなかったんだけどね、『クラスのみんなのところに戻る』って言って、田村くんは先に戻って行ったの。追いかけようと思ったんだけど、どんな顔で田村くんもいるみんなのところに戻れば良いか分かんなくなって、結局この場に残ることにしたの」
「つまり、告白をされた直後だったから、戻るのが気まずかったってわけですね?」
「…うん」
「一日とか、週明けとか、時間が少し開けば気持ちも切り替えれるけど、流石にすぐじゃいつもみたいに話せないから…」と言う愛野さん。
何とも共感しづらい話ではあるが、確かに自分も同じような立場になったら、グループには戻らずにいただろうなと思った。
「なるほど、事情は分かりました。それで、愛野さんはこれからどうするつもりですか?」
僕がそう尋ねると、愛野さんは寂しそうな顔をしながら、
「川瀬たちに会ったのはほんとに偶然で、ちょうど帰ろうとしてたところだったの。クラスのみんなには『体調が悪くなったから先に帰るね』って連絡はしたし、花火が見れないのは勿体ないけど、このままここにいても…ね」
と僕に言ってきた。
確かに、一人でここに残っているのは楽しくないだろうし、かといってクラスのグループと合流することはできないので、帰るしか選択肢はないのだろう。
「川瀬に話したらすっきりしたし、私は先に帰るね。川瀬もせっかくの花火大会なのに、ごめんね」
そう言って名残惜しそうな笑顔を浮かべながら、ベンチを立ち上がる愛野さん。
愛野さんにとっては残念な一日となったかもしれないが、僕には全く関係のない話である。
なので、本来ならここで別れ、戌亥さんたちと合流する方が僕にとっては良いのかもしれない。
しかし、面倒臭いことには首を突っ込みたくないと思う心とは裏腹に、
「僕も疲れたので帰ろうと思います。一緒に帰りましょうか」
と僕の口が開き、愛野さんが驚くのと同じように、僕自身もこの相反する行動に内心では驚いていた。
「でも、川瀬は流歌ちゃんたちと合流した方が…」
僕が気を遣ってそう言い出したことには気付いているのだろう、愛野さんは申し訳なさそうな顔で戌亥さんたちと合流した方が良いと伝えてくるが、人ごみに疲れたというのはそれなりに本当のことだし、何よりこんなに寂しそうな顔をしている相手を放っておくほど、僕は無神経ではない…はずだ。
「じゃあ言い方を変えます、一人で帰るのは寂しいので一緒に帰ってくれませんか?」
少し恥ずかしいが僕がそう言い直すと、愛野さんはぽかんとした表情を浮かべた後、嬉しそうな顔で笑い始めた。
「ふふっ、じゃあ一緒に帰ろっ♪」
愛野さんはまだ少し申し訳なさそうにはしているが、僕の提案というかわがまま?を飲み込んでくれたようで、こうして二人で帰ることになった。
「入口の方に自転車を停めてあるので、最初に自転車を取りに行っても良いですか?」
「うん、良いよ」
僕たちはとりあえず来た道を引き返すことにした。
花火が始まる時間が近づいており、出店がある道はさっきよりも人が多いように感じる。
隣で歩いている愛野さんと肩が当たるほどの密集感で、しばらくは人の流れに身を委ねながら歩くしかなさそうだ。
その時、隣で歩いていた愛野さんが「きゃっ」と小さく声を上げ、僕の方にもたれかかってきた。
どうやら人の波に押され、一瞬体勢を崩したようだ。
「ご、ごめんっ!」
愛野さんは顔を赤くさせて、すぐに僕から体を離す。
僕の方に倒れたから問題はなかったものの、倒れてしまったら大変な事態に繋がりかねないし、人の波に飲まれてしまったらはぐれてしまう可能性だってあると僕は考えた。
そうして僕は、悩んだ末愛野さんの方に手を差し出した。
「次また人の波に押されてしまったら大変ですし、嫌だとは思いますが、ほんの少しだけ手を握っておきましょう」
ついさっき戌亥さんや柄本さんがこうしていたのをふと思い出し、何とかしようとした結果、最初に出たのはこの案だった。
愛野さんの目は、僕の顔と差し出した手を行き来しており、僕がこんなことを言い出すとは思わなかったのか、びっくりした様子を浮かべていた。
(流石にただのクラスメイトがこんな提案をするのはまずかったか)
僕がそう思い、手を自分の元に戻そうとした瞬間、
「えへへっ♪」
と満面の笑みを浮かべながら、愛野さんは僕の手を握ってきた。
愛野さんの耳や頬は真っ赤に染まっているが、少なくとも嫌な感じではなさそうなので、僕たちは手を繋いだ状態で移動を始めた。
愛野さんの手は思ったよりも小さくて、それでいて何だかすべすべとしている。
今更になって手汗とか大丈夫かなと少し心配になってきた一方で、愛野さんはずっと嬉しそうにニコニコとしたままだったので、あまり愛野さんが気にしていないことを祈っておくことにした。
___手、繋いじゃったっ♪
愛野さんが何かを呟いた気がするが、花火大会の喧騒によってかき消され、僕の耳には入ってこなかった。
***
そうして無事に花火大会の会場を抜け出し、自転車を駐輪場に取りに行った後、僕たちは駅へと移動をした。
今度は駅駐輪場に自転車を置いておくことにし、自宅とは反対方向だが、愛野さんを夜に一人で帰らせるのは何だか忍びないため、自宅近くまで送っていくことにした。
愛野さんは気にしなくても良いと言っていたが、僕にはもう一つ理由があったため、送っていくということを念押しした。
そうすると、愛野さんが今日何度目かの赤面を発動させ、顔を両手で隠していたが、先程とは違い駅構内は明るいため、ばっちりと耳まで赤くなっているところを見たというのは内緒の話だ。
そうして電車に乗り込み、愛野さんの最寄り駅へ向けて電車が出発した。
電車内は人がまばらにいるだけだったので、僕たちは座席に座ることができた。
後一時間くらい経てば電車に乗る人の数もいっぱいになるだろうなと想像し、流石にそんな電車には乗りたくないなと、普段の引きこもり気質の自分が顔を出す。
電車に乗ってしばらく会話をしていると、「ドォーン!!」という大きな音が聞こえてきたので窓側に目を向けると、夜空に大きな花火が咲いていた。
どうやら花火の打ち上げが始まったらしく、
「綺麗…」
と、愛野さんは花火の打ち上げに目を奪われていた。
僕は、愛野さんの横顔に浮かんでいる「名残惜しそうな」色を見逃すことはなかった。
ついさっきも同じような顔をしていたので、本当は花火を近くで見たかったのだろうということは想像に難くない。
そこで、僕は駅までの道中で「あるもの」を仕込んでおいた。
これで気を取り直してくれるかは分からないが、多少の気休めにはなって欲しいものだ。
そうこうしているうちに電車は目的地へと到着し、僕たちは電車を降りた。
改札を出て構内の外へ出ると同時に、僕は愛野さんにこう話し掛けた。
「愛野さん、帰りの道中で公園ってありますか?」
僕の突拍子のない質問に頭を傾げていたが、
「小さな公園だけど、すぐそこにあるよ」
と愛野さんは答えてくれたので、僕はそこに移動しようと提案した。
とりあえず頷いてくれた愛野さんに案内をしてもらいながら、僕たちはその公園へと足を踏み入れた。
「遊具が少しとベンチがあるくらいで、他は何もないよ?」
愛野さんがそう言ってくるのを耳に入れつつ、この公園に水道があるのを確認し、
(よし、これなら大丈夫だ)
と僕は思った。
「愛野さん、まだ時間は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ?」
公園に備え付けられているベンチにトートバッグを置き、その中から僕は「あるもの」を取り出して愛野さんへと見せた。
「愛野さん、僕とこれをやりませんか?」
「これって…」と言いながら、愛野さんは僕に目を向けてくる。
「手持ち花火…だよね?」
「はい、そうです。折角花火大会にまで行ったのに、花火を見ないままなんて悲しいので、手持ち花火でもしようかなと思ったんです」
「と言っても、電車で少し見たんですけどね」と僕は付け加える。
そう、僕が用意していた「あるもの」というのは、「手持ち花火」のことだ。
駅へと戻る道中に100円ショップがあることを知っていた僕は、
『買い忘れたものがあるので、ちょっとだけ待っていてください』
と言って、愛野さんには内緒で手持ち花火と折り畳みバケツ、そしてライターを購入したのだ。
「あっ…さっきはこれを買ってたんだっ」と愛野さんは気付いたようであり、僕は水道からバケツに水を入れて花火の準備を行う。
準備を終えると、愛野さんが「どうして?」と声を掛けてくる。
「どうして川瀬は、私のためにここまでしてくれるの?」
街灯の薄灯りに照らされた愛野さんの目には何故か光るものが輝いているが、恐らく悪い意味ではないはず?だろう。
「どうして、ですか」
うーんと考えながらも特に理由はないんだよなぁとは思いつつ、それでも少しは思ったことをそのまま口に出して伝えることにした。
「愛野さんが花火を見たそうだったからですかね?」
更に僕は言葉を続ける。
「さっきも言いましたが、花火大会にまで行ったのに、このまま終わりだったらちょっと寂しいじゃないですか。手持ち花火が花火大会の代わりになるとは僕も思っていませんが、ちょっとでも愛野さんの気持ちがましになれば良いかなと」
僕からすれば、花火を見ようが見まいがどちらでも構わないのだが、愛野さんにとってはそうではないように思えたのだ。
その辺の感覚が分からない、いや分からなくなった僕と愛野さんは違う。
面倒臭いことだとは分かっていながら、愛野さんにお節介を焼いたのは僕であり、それなら最後まで責任を持ってお節介を焼くしかないだろう。
お節介焼きの「とある先生」と一日中一緒にいたせいで、変な気が移ったのかもしれないなと僕は苦笑する。
僕が思ったことを伝えると、愛野さんは一滴の涙を溢した。
「嫌でしたか?」
と声を掛けると、
「うぅん、ヤじゃないよっ、嬉し過ぎて…えへへっ」
と愛野さんは答え、袖の部分でその涙を拭っていた。
嬉し涙を拭った後、愛野さんは僕のすぐ目の前に近付いてきて、こう言ってきた。
「川瀬っ、私とっても嬉しいっ、ありがとう!」
その暗闇でも輝くような笑顔を見て、僕は何故か気恥ずかしくなってしまったので、「…どういたしまして」とそっけなく返しておいた。
パチパチと小さく光る線香花火を見つめながら、僕たちは静かな時間を送っていた。
僕たちはベンチに座っているのだが、愛野さんがやたらと距離を詰めてきて、肩が触れ合うほどの近さとなっている。
距離を開けようとはしたのだが、愛野さんがすぐにぴたりとくっ付いてくるため、僕は何度目かで離れるのを諦めた。
線香花火をじっと見ていると、
「川瀬の線香花火、写真撮っても良いっ?」
と愛野さんに聞かれたので、僕は「どうぞ」と頷いた。
片手で手持ち花火を持ちつつ、もう片方で写真を撮るのは確かに難しいので、自分の方ではなく僕の方の線香花火を撮るのだろうと勝手に解釈していると、「カシャッ」という音が隣から聞こえてきた。
「ありがとっ♪」という愛野さんは口元が緩むのを我慢しているように見えるのだが、そんなに線香花火が好きだったのだろうか?
スマホをしまって「ふんふ~ん♪」と鼻歌を歌い出す愛野さんを見て、手持ち花火を準備しておいて良かったなと僕は思った。
その時、「そう言えば言い忘れていたな」ということをふと思い出し、僕は愛野さんに向けてこう伝えた。
「愛野さん、言い忘れていましたが、浴衣似合ってますよ」
急に僕が褒めてくるとは思わなかったようで、愛野さんは今日一番の驚いた表情を浮かべ、思わず線香花火を下に落としていた。
「え、えっ!?もぉ!はっ、反則っ!不意打ち禁止っ!」
クラスメイトのみんなから散々言われた後だと思ったのだが、愛野さんは僕に背を向けて何故か悶え始めた。
こっちを向き直した後も、何故かポコポコと僕のことを優しく叩いてくる愛野さん。
どうして愛野さんがそんな行動をするのか僕には全く分からず、何だか無性に笑いがこみ上げてきたので、僕は口に手を当てて笑いを堪えるのに必死になった。
そんな肩を震わせている僕を見て、
「もぉ~川瀬のばかぁ~っ!」
と再び愛野さんがポコポコと僕を叩いてくるやり取りが、花火を終えるまでしばらく続くのだった___。
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