#14 ショッピングモール







 土曜日の朝、アルバイト先のコンビニの最寄り駅であり、戌亥さんの最寄り駅でもある駅の改札前を集合場所としたため、僕はその駅に向けて自転車を漕いでいる。

 本当は徒歩五分の最寄り駅が僕にはあるのだが、僕が連絡手段を持っていないので、同じ電車の決めた車両内で待ち合わせをすることにリスクがある(何らかの事情でその電車に乗れない場合)ということや、そもそも僕がその最寄り駅をあまり利用したくないということが理由で、戌亥さんの最寄り駅が集合場所となった。


 少し早めに駅へと到着した僕は、自転車を駐輪場に停め、改札口の前の壁に寄りながら戌亥さんが来るのを待つ。

 休日ということもあり、それなりの数の人が駅を利用していることが窺える。

 中には同い年くらいの人たちも多く、どこかに遊びに行くのだろうか、楽しそうな表情を浮かべながら改札を通っていく。

 その様子を一線引いたところから眺めている自分がいたのは確かだったが、そう言えば今日の僕も似たような立場だったということに気付き、何とも皮肉なことだと感じざるを得なかった。


 そうして何分か経ったところで、


「お待たせしましたぁ~」


 と戌亥さんが集合時間ぴったりにやってきた。


「おはようございます、戌亥さん」


「おぉ~バイト以外ではじはじと会うのは新鮮ですなぁ~おはようです~」


 戌亥さんが言うように、僕は今までバイト先でしか柄本さんや戌亥さんたちと出会っていなかったので、こうしてバイト先以外で会うというのは中々に不思議な感じがするものだ。

 制服とバイトの服以外の戌亥さんを見るのもこれが初めてだが、第一印象は「戌亥さんらしい」という感想だった。


 黒いオーバーサイズのトレーナーに、白いラインの入ったジャージのズボンというラフな出で立ちで、ショルダーバッグをかけている。


 私服の戌亥さんの姿を珍しがっていると、戌亥さんも「私服のはじはじを見れたのはラッキーですなぁ~」とニヤニヤしながら僕のことを見てきた。


 僕はグレーのパーカーにジーンズを合わせたシンプルな服装(マネキンが着ていた服を買った)で、特に変わった装いをしているというわけではないと思っている。


 戌亥さんは僕の周りをクルっと一周回り、


「やっぱりるかちゃんの予想通りはじはじはシンプルな格好でしたぁ~」


 と勝手に満足そうな表情をしていたので、僕も改めて戌亥さんの方に目を向けると、戌亥さんのトレーナーにどこかで見たことがあるキャラクターが描かれていた。


「戌亥さんのトレーナーに描かれているその白いキャラクター…どこかで見たことがあるような」


「あぁ~『しろぴよ』のことですかぁ~?」


 そう言いながら戌亥さんは後ろに向いたのだが、トレーナーの後ろにはより大きくその『しろぴよ』というキャラクターがデザインされていた。


「『しろぴよ』は~今るかちゃんの中で最も熱いひよこのキャラクターなんですよぉ~」


 どこで見たんだろうと考えていると、「あっ」と僕は以前にこの「しろぴよ」を見た時の記憶を思い出した。


「この前に、戌亥さんが教えてくれたお菓子のパッケージにデザインされていたやつですね」


 そう言えば、少し前に愛野さんへ渡したお菓子にこのキャラクターが書かれていたのだ。


「そうですそうです~ちょうどあの期間限定のチョコに『しろぴよ』が描かれてたんですよね~」


 あの時にそのお菓子をオススメしてくれたのは戌亥さんだったので、まさかの「しろぴよ」との二度目の邂逅によって、点と点が繋がったようなスッキリ感を味わった。


 そうして会話をしていると、目的地に向かう電車の時間が近づいてきたので、僕たちは改札を通り、ホームで少し待った後その電車に乗り込んだ。




目的地に着くまでの間、戌亥さんによる「しろぴよ」講座が開かれたおかげで、なんだかんだバイトの休憩時間のような雰囲気で時間が過ぎるのだった。










***










「到着~」


 電車を降りて数分歩き、目的のショッピングモールにたどり着いた。

 前からこの場所は存在していたが、つい二年前に全面改装を終えたばかりで、改装後に来るのは初めてだ。

 そのため、移動は戌亥さんに頼ることにし、まずは戌亥さんの当初の目的であるCDショップに行くことになった。


 黄色い出入口と内装が特徴的なCDショップに到着し、戌亥さんは目的の場所へ迷うことなく歩いていく。


「ありましたぁ~」


 戌亥さんはお目当てのCDを見つけ、テンションは変わらないものの、いつもより楽しそうな表情を浮かべている。


「同じCDなのに何枚も同じのがあるんですね」


「そうなんですよぉ~通常盤にぃ~特典付きにぃ~初回生産限定盤にぃ~どれを買うのか迷いますなぁ~」


「ぐぬぬ…」と効果音が付きそうなほど迷う様子を見せていた戌亥さんであったが、


「折角買いに来たのでやっぱりここは初回生産限定盤に決めます~」


 と、一番値は張るが特典も多いCDを手に取り、「ふっふっふっ」と何故か僕に向けてドヤ顔を向けてきていた。

 何か反応を求められているような気がしたため、


「流石戌亥さんですね」


 と、何が流石なのかは分からないまま僕は戌亥さんにそう伝えると、


「そうでしょうそうでしょう~」


 と上機嫌になっていたので、どうやら僕は謎の選択肢に正解をしたようだった。

 その後、次は戌亥さんによるオススメ楽曲紹介タイムが始まった。

 このCDショップは音楽の試し聴きができるため、


「この曲はオススメですよ~」


 と戌亥さんが言う曲を聴いたり、CDを見たりして、最近流行りの音楽などを戌亥さんから教えてもらった。

 戌亥さんがロックバンドの曲を好んでいるのは知っていたが、アイドルの曲やアニソンにまで詳しいということは知らなかったため、新たな一面を見たというような感じがした。

 そうしてCDショップの奥まで行くと、楽器店が隣接していたため、その楽器店にも僕たちは足を運ぶことにした。

想像よりも楽器は高価なものなんだなと思いながら店内を歩いていると、楽器に触れることができるスペースがあり、戌亥さんが乗り気だったため、少し楽器を触ってみることになった。

 戌亥さんはエレキギターを手に取り、慣れた様子で弦の調整をした後、ジャーンとギターの音を鳴らし始める。

 日頃からギターを弾いているという情報通り、戌亥さんの演奏は素人が見ても経験者と分かるほどの腕前であり、普段とのギャップに僕は少し驚いた。

 「はじはじもどうですかぁ~?」と戌亥さんが言うので、僕はエレキギターの横に置いてあるアコースティックギターを手に取った。


「はじはじはアコギが弾けるんですかぁ~?」


「素人ですけど、中学校の授業で少し弾いたことがあったので、もしかしたらと思いまして」


 アコギの前に楽譜が置いてあり、流石の僕でも聴いたことがあるような曲の楽譜があったので、中学の時に覚えた楽譜の読み方と指の位置を思い出しながら、感覚でアコギを弾いてみる。


「おぉ~ほとんど初めてでそんなに弾けるなんてはじはじはもしかして天才なのでは~?」


 かなりゆっくりとした演奏にはなってしまったが、何となくは弾けていたようで、戌亥さんもお世辞だとは思うが少し興奮した様子で僕のことを褒めてきた。


「ありがとうございます。でも戌亥さんにはまだまだ遠く及びません」


「はじはじは~練習すればどんな楽器でも弾けそうな感じがしますねぇ~」


 「るかちゃんと一緒にギター始めませんか~?」と戌亥さんは勧誘をしてくれているが、僕は丁重にお断りをしておいた。

 戌亥さんも僕が断るというのは分かっていたようで、


「その気になった時は気軽に言ってくださいなぁ~」


 と笑顔を見せていた。







 CDショップにそこそこ長い時間滞在をしていたことで、少し先に昼ご飯を済ませようということになり、僕たちはハンバーガー店にやってきた。

 ハンバーガーなんて久々に食べるなぁなんてことを思いつつ、僕たちは注文を済ませ、席へと移動する。

 ポテトは「カリカリ派」か「しなしな派」かについて、どうでもいいような議論をしながら時間を潰していると、すぐに注文の品が届いた。


「いやぁ~毎回新作が出るたびに挑戦するんですけどぉ~今回の新作はかなり当たりです~」


「当たり外れはなんだかんだあるんですね」


「好みの違いも大きいですけどねぇ~るかちゃん的には照り焼きソースが入ってるのは打率が高いですなぁ~」


「なるほど」


 そんな話をしながらハンバーガーを食べ進め、セットのポテトを摘まみながら、僕は戌亥さんに今回の目的について話を振る。


「戌亥さん、食べ終わった後はどのお店に向かう予定ですか?」


「上の階に雑貨を取り扱うお店がいくつかあるので~順番に回っていく感じですかねぇ~」


「学校の人に聞いてみたら、無難なところは消耗品ですけど、関係性によってはブレスレットとかヘアピンとかも良いのではと言ってましたね」


「なるほどなるほど~るかちゃんも同じようなことを考えてましたぁ~」


 「小物も良いのがあれば候補の一つです~」と言う戌亥さんだったが、急に戌亥さんは


「それはそうとぉ~はじはじに聞きたいんですけどぉ~」


 と言いながらニヤニヤと僕を揶揄うような笑みを浮かべ始めた。

 僕が「なんですか?」と尋ねると、


「はじはじが意見を聞いたのって女の子ですかぁ~?」


 と戌亥さんは聞いてきたのだった。

 確かに僕が意見を聞いたのは愛野さんだったので、


「はい、そうですよ」


 と答えると、


「はじはじも隅に置けませんなぁ~」


 と言いながら、何だか邪推をしているようだった。

 そのため、愛野さんはただのクラスメイトの一人だということを、名前を出さずに戌亥さんに伝え、何でもない関係だと念押ししておいた。

 未だにニヤニヤしている戌亥さんであったが、


「るかちゃんもその人と同じ意見なので~とりあえず第一候補は身に付けやすいアクセサリーって感じにしましょうか~」


 とプレゼントの方向性も決めてくれたので、これ以上邪推をされる前に「そうしましょうか」と、僕は戌亥さんの意見に賛成をしておいた。

 実際反対する理由もなかったので、一石二鳥というやつだ。

 そうして昼ご飯を食べ終わった後、僕たちは雑貨店エリアに向けて移動をするのだった。










***










 雑貨店の一つに到着した僕たちは、店内を見て回りながら、プレゼントになりそうなものを物色する。

 良さそうなものは仮押さえという形で記憶しておき、とりあえず雑貨店を全て見て回って、最後に良いものを一つ決めようということになった。


「これは良い感じですなぁ~」


「こんな感じのも良いのではないですか?」


 ああだこうだ言い合いながら一つ目の雑貨店を見終わった僕たちは、次の雑貨店へと移動し、同じように良さそうなものをピックアップしていく。

 戌亥さんの意見は-意外に思えるかもしれないが-どれも的確なものであり、選ぶものもセンスがあって、オシャレなように見える。

 やはり「せっちゃん」さんと同性である戌亥さんの意見は貴重だなと思いながら、柄本さんと一緒にご飯を食べた日に、柄本さんが勢いで僕だけにプレゼント選びを頼まなかったことは英断だったと、心の中で柄本さんを評価しておくことにした。

 そうして、僕は戌亥さんに商品を一度チェックしてもらいながら選ぶことを心掛けつつ、商品を見て回った。




 ショッピングモール内の雑貨店をひととおり回り終えた僕たちは、休憩用の椅子に腰掛けながら、見て回った中でどれが良かったのかを話し合う。


「僕の個人的な意見だけなら、さっきのスノードームか、二番目に行ったお店のブレスレットですかね」


「るかちゃんもはじはじと全く同じ意見です~強いて言うなら最初のぬいぐるみも可愛かったですけどぉ~それはどちらかと言えばるかちゃんの好みって感じですなぁ~」


 どうやら僕と戌亥さんの意見は同じだったようで、その二つのどちらかにしようという話になった。

 当然もっと他にも良いものは沢山あったのだが、予算ギリギリの少し高価なものだと、受け取った時に「せっちゃん」さんが恐縮してしまうかもしれないという場合なども考慮し、結果その二つが値段的にもデザイン的にも良いのではないかと僕は考えた。

 それに、その二つは見て回っていた時から戌亥さんにも好評であり、僕もこれなら…と思っていた。

 後はどうするかだけなのだが、そもそも二つを一つに絞らなくても良いのではないかという話になり、二つ買っても予算に収まっていることから、悩んだ末僕たちは二つをプレゼントとすることに決めた。

 話がまとまったので、僕たちはその二つを買うために移動を始めると、休憩していた場所近くの一角で、フリーマーケットのような形で出店していたお店があることに気付き、少し気になって


「戌亥さん、少しだけあのお店も見ていいですか?」


 と戌亥さんに声を掛け、僕たちはそのお店の前に移動した。

 そのお店はオリジナルのアクセサリーを販売するお店で、僕たちが探しているアクセサリー類もいくつかショーケースに展示されていた。

 その中に、一目見た瞬間ビビッとくるようなものがあり、


「戌亥さん、これなんてどうですか?」


 と戌亥さんに尋ねると、


「ふっふっふっこれなら喜んでもらえそうな気がしますねぇ~」


 と戌亥さんも満足げに頷いていたので、予定を変更して、僕たちはこの「ブレスレット」を「せっちゃん」さんに向けた誕生日プレゼントとして買うことに決めたのだった___。



















___えっ、川瀬…?






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