13.シーカー

俺は、ジャックス。

スラムで生まれ、スラムで育った。

それも特別危険なスラムだったらしい。比較対象がなかったから知らなかった。


しかし血みどろなトラブルの起こるスラムで喧嘩で負けたことはない。


自分が超人的な身体能力を持っていることに気付いたのは、銃撃のなかでも無事だったときだ。確かに撃たれたはずだったが、痛みはあるものの、それ以上ではなかった。


その力は俺をヒーローにするでもなく、そのうち俺はスラムの怪物と呼ばれ恐れられはじめた。


力のやり場もわからなく、ただトラブルを繰り返す。

とある日、黒づくめの車、銃器を装備した一団に囲まれた。


警察か軍隊か、一通り抵抗して、疲れたから奴らについていくことにした。


一人だけ特別強い、スーツ姿の男がいた。俺と同じような超人体質らしい。そいつとだけは良い闘いしたかもな。


まあ父親は最初からいなかったし、母親はいつの間にか男と消えていたから、後腐れなく行けるってもんだ。…いや、一人だけ仲が良いやつがいたっけな。


それから俺はよくわからない大きな組織に半強制的に雇われ、そこで「シーカー」と呼ばれるようになった。


カオス現象ってやつに関連する問題を解決する特別な実働部隊の一人。


そこでも怪物扱いは変わらなかった。

テロリストやら他の超人体質のやつらとの闘いの連続。ただ力をふるうだけ。


そんな中、今回の任務は、とある女子学生の確保だった。

今までとは違う任務だったが、事情も聞かずに俺は従うだけだ。


任務用ヘリでの輸送中、それは起こった。


突然の地震。ヘリは大きく傾き、墜落していく。最後の記憶は…なんだろうな。


気を失った。


痛みの中で目覚めた場所は、荒野。周りにヘリの残骸も、他のメンバーも見当たらない。ただ、否応にも目に入るのは、巨大な都市だ。


超未来的な、ビル群が立ち並ぶ都市。大きく伸びる高速道路のようなもの。

「どこだ…ここ?」


学があるわけではないが、こんな荒野、都市の存在を知らないはずがない。

何も考えずにその都市に向かうことにした。


力任せに都市の入口のほうに跳びあがっていく。自身の身体能力からすれば簡単なことだ。


入口のような大きなゲートが近づいてくると同時に、バイクのような車両の音が近づいてくるのも気付いた。


「話でも聞きてぇな。それに足もあると便利か」

俺は近づいてくるバイクに向かっていくことにした。



「…なんかくるな」



スレイはこちらに向かってくるモノの気配に気づいていた。

先ほどのダイアウルフよりも速く、キレのある動き。


(どうせ追いつかれるな)


スレイはバイクを徐々に減速させて、停止した。

「カコ、ちょっとこいつと後ろにいてくれよ」


「え、はい!」


近づいてきた影は、こちらがバイクを止めたのに気付いた。

背の高い、コートを羽織った金髪の男。


「やられる前に、やらせてもらうぜ!」

スレイはこちらに向かってきた男めがけて飛び上がり、キックをお見舞いしようとする。


「シ、シェフ!?」

私は突然のことにおどろき、声を上げてしまう。


バシィッ!!


スレイの左足の蹴りは相手の頭に当たったかのように思えたが、相手はその蹴りを右腕でしっかりとガードしている。


「おい、急になにしやがる。テメェ!」

金髪の男は返しの回し蹴りをスレイの胴体にむかって放つ。


スレイはその回し蹴りに自分の蹴りをぶつけ、相殺させる。


「お?やるじゃねぇか!!お前、どこの奴だ?」


そんなシェフの様子は、楽しそうにみえた。相手が危険人物かどうかを判断するという目的はどこかに消えていた。


「シ、シェフ…?」

もしかしなくても、シェフってかなり喧嘩っ早い…?てか喧嘩好き?


「こ、の野郎!!」


「オラぁ!!」


シェフと金髪の男の格闘は激しく続く。


(シェフが眠ってて助かりました。)

眠る前に、ふとマスターが言っていた言葉を思い出す。


あの最初の黒づくめの男たちが出てきたとき、シェフがその場にいなくてよかったと私は感じた。

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